Version 1.1 2009/12/2 特別研究員 福本拓 著
レポートでも論文でも,評価の対象となるのは内容です。見栄えがよい文書ほど,読み手としては助かりますが,それは内容の評価とは直接関係ありません。ですから,
Wordのテクニックを学んでも,論文の内容にはプラスにならないと考える人が多いのも当然です。
しかし,Wordを代表とするワードプロセッサ(文書処理)は,その名の通り,文書の「処理」とすることにあります。「処理」とは,つまり,文書を打ち込むだけではなく,文書を作っていく過程そのもの―たとえば,構成を練ったり,手直しをしたり―を扱うということなのです。
従って,Wordをうまく使いこなすことは,よりよい内容の論文作成にもつながるのです。ここでは,卒論・修論に役立つWordの使い方として,まずは,アウトラインの作成方法とスタイルの設定について説明したいと思います。
アウトラインとは,文書構造のことを言います。文書構造とは,つまり,章・節・項のような階層化された見出しのことです。演習などで論文を読まれた方はお気づきと思いますが,章・節・項の関係がきちんと整理されていることは,論文の「内容」の善し悪しに大きく関わります。
Microsoft Wordでは,階層別に見出しを整理し,文書全体の構造を把握するためのアウトラインモードが設けられています(皆さんが普段見ている画面は,「印刷レイアウト」といいます)。まずは,アウトラインモードがどのようなものか見ていきましょう。
メニューバーの「表示」から,「アウトライン」をクリックします。
そうすると,次のような画面になります。
□は,一つの段落をあらわしています。文書における段落(パラグラフ)は,非常に重要な概念ですので,次節で改めて解説をします。ここでは,章・節ごとに見出しをつける方法を説明します。
Wordにおけるアウトラインの階層は,レベルによって表現されます。つまり,章といった階層が上の見出しはレベルが高く,反対に,項のような見出しは低くなります。レベルは9段階設定可能ですが,レベル1が最も高い階層になります。
上の例では,「1.はじめに」とあるのは,章です。この段落のどこかにカーソルをあわせ,「アウトライン」ツールバーにある「←(レベル上げ)」をクリックします。
続いて,節にあたる段落にカーソルを合わせ,「→(レベル下げ)」をクリックして,「レベル2」と表示されるようにします。
そうすると,レベルの低い段落へ向かって右下がりに文書が表示されるようになります。は,段落に見出しが設定されていることを示しています。Word2003では,左右の矢印を使って見出しのレベルを設定します。
アウトラインの設定作業は,これだけです。ただし,後々の作業,たとえばスタイルの設定や,目次の作成にとって不可欠なものです。
それでは,「アウトライン」ツールバーの「レベルの表示」のリストから,「2レベル表示」を選んでください(下図)。
論文のような長い文書を作成していると,画面に表示されている部分だけでは全体の構成をつかむことができません。アウトラインを設定しておくと,文書の論理構成を把握しながら論文を書いていくことができます。
また,「レベルの表示」を「すべてのレベル」とし,「アウトラインツール」にある「1行目のみ表示」のボタンをクリックすると,各段落の1行目のみが表示されます(下図)。章節のみならず,本文の内容をふまえて構成を考えることができます。
なお,見出しを設定しておくと,本文を折りたたむことが可能です。たとえば,現在編集中の本文はそのままに,前後の章節の本文を表示させなくする際に使えます。
方法は,の部分をダブルクリックするだけです。上図の例で,「1.はじめに」を折りたたむと下のようになります
通常の画面である「印刷レイアウト」ではなく,アウトラインモードで文書を編集することもできます。試しに,「1.はじめに」の直後に新たに文書を挿入してみます。
「1.はじめに」の段落の末尾にカーソルをあわせ,Enterキーを押すと,新たな段落が挿入されます。このままだと,「レベル1」の見出しになったままなので,新たな段落のレベルを「本文」に変更すればいいわけです。「レベル1」となっているのをクリックし,「本文」を選択してください。
ところで,文章を書くに従って,段落の順序を入れ替えた方がいいと考える場面も多々でてきます。□をドラッグすることで,段落ごと移動することが可能です(下図)。
Wordにおける段落というのは厳密な定義を持っています。すなわち,一つの段落は,から次の
の間にある文字の集まりです。Wordでは,段落という単位は以下の設定に関わってきます。
段落に何らかの設定を適用するにあたって,改行と段落内改行を知っておく必要があります。資料の引用に際して問題となる,次の例で説明しましょう。
上の文章では,によって段落がわかれています。もし,この引用部分に箇条書きを設定すると,
段落ごとに●がついてしまいます。この問題を回避するためには,引用部分全体を一つの段落にする必要があります。
段落内改行の仕方は簡単です。通常の改行時にはEnterキーを押すのに対し,Shiftキーを押しながらEnterキーを押します。上の文の例だと,いったん改行を消し,改めて段落内改行をしてから,再度,箇条書きの設定をします。
すると,
改行のマークが↓マークに変わり,引用部分全体が一つの段落として扱われます。
和文でも欧文でも,文書作成の際には段落のはじめ一文字を字下げするというルールがあります。また,文献資料の一部の引用に際しては,通常,両側にインデント(字下げ)を設定し,一目して引用であることがわかるようにします。
インデントの設定には,ルーラーを使う方法と,「段落の設定」で指定する方法の二つがあります。ここでは,後者の方法について説明したいと思います(ルーラーの方が簡単ですが,文字数単位でのインデントの設定が難しいので)。
最初の段落に,1行目の字下げを設定します。まず,「印刷レイアウト」に戻してから(メニューバーの「表示」から「印刷レイアウト」から選びます)一段落目のどこかにカーソルをあわせます。
そして,メニューバーの「書式」から「段落」(下図)をクリックします。
段落の設定のダイアログボックスが開きますので,「インデント」の「最初の行」を「字下げ」とし,「幅」を「1字」に設定します。
続いて,引用部分のインデントの設定です。同じく,引用部分の段落にカーソルをあわせ,メニューバーの「書式」から「段落」を選択します。そして,上図の「インデント」の左・右それぞれ,「2字」に設定します。すると,
引用部分の段落に,左右・二字分のインデントが設定されました。
引用部分は,左右のインデントだけでなく,行間を詰めることで「引用であること」をより明瞭にすることがあります(特に卒論は専修によってページ数制限が厳しく,長々と引用をすると本文を書くスペースが減ってしまいます)。
行間も,段落単位で設定しますので,「段落の設定」ダイアログボックスを使います。「間隔」の「行間」を‘固定値’にし,‘12pt’にします。
スタイルとは,いわゆる文体のことではなく,文字の装飾(フォント・大きさ・太字・斜体など)をいいます。ただし,Wordにおけるスタイルの活用は,見出し以外の文書構造にも密接に関わっており,「見やすさ」の面だけではない利点があります。見出しの設定は「印刷レイアウト」モードで行います。
アウトラインで見出しを設定しておくと,自動的に「スタイル」が設定されます。試しに,「レベル1」に設定した段落にカーソルをあわせてみます。そして,メニューバーの「書式」から「スタイルと書式」を選択すると,右側の作業ウィンドウに「スタイルと書式」の一覧が表示されます。下図の通り,「レベル1」には,「見出し1」というスタイルが適用されています。
アウトラインモードでの「レベル1」「レベル2」「レベル3」はスタイルの「見出し1」「見出し2」「見出し3」に対応しています。
たとえば,「レベル1」の段落のフォントをまとめて変更する場合を考えます。メニューバーの「書式」から「スタイルと書式」を選び,右側作業ウィンドウの「見出し1」をクリックし,「変更」を選択します。
そうすると,選択したスタイルの書式を設定するためのウィンドウが開きます。この画面でもある程度のアレンジは可能ですが,左下の「書式」を選択すると,フォント・段落(インデント含む)などの細かな変更が可能です。フォントや文字サイズを変更し,「OK」をクリックすれば完了です。
続いて,本文部分のインデントを変更してみましょう。普通,日本語では段落の最初を一字分字下げします。英語の場合は,4-5文字下げるのが一般的です(特に欧文で書く場合,スペースキーだと狂いが生じます)。本文部分には,何も設定しなくても「標準」というスタイルが適用されています。
「見出し1」の例の場合と同様に,「スタイルと書式」を展開し,「標準」を選んで「変更」をクリックします。「スタイルの変更」ウィンドウの左下,「書式」を選んで「段落」を選択します。「段落」のウィンドウで,「最初の行」を‘字下げ’,「幅」を‘1字’にすると,本文の段落全てが変更されます。欧文の場合は,それぞれの分野での決まりにあわせて,少し大きめにとるとよいでしょう。
スタイルは,既定のものだけではなく,各自の必要に応じて新たに作成することができます。ここで,引用部分に独自のスタイルを設定する方法を考えてみましょう。前節で用いた,既に書式の変更をした引用部分を例に説明します。
この引用部分の段落にカーソルをあわせ,メニューバーの「書式」⇒「スタイルと書式」を選び,「新しいスタイル」のボタンをクリック(下図左)します。そして,「名前」の箇所に‘引用’(自分にとってわかりやすい名称)と入力し,「OK」をクリックします。そして,引用部分にカーソルを合わせ,スタイルの一覧から「引用」をクリックすれば完了です。
以上のように設定しておけば,次の引用箇所にて,「スタイル」の‘引用’をクリックすれば,自動的にスタイルが適用されます。仮に引用部分が10カ所あるとしましょう。インデント・フォント・行間という三つの要素を変更する必要があるとして,計10回×3=30回の操作が必要になります。しかし,新たなスタイルを指定しておけば,2回目以降はワンクリックで済むのです。しかも,もし書式の変更をする必要が生じた場合,‘引用’の段落の1カ所を変更し,「スタイルと書式」のウィンドウを開き,‘引用’の「選択個所と一致するように 引用 を更新する」をクリックすれば,‘引用’スタイルが適用された全ての箇所の書式が変更されます。
◆図中で使用されたWord文書は,福本拓「アメリカ占領下における朝鮮人『不法入国者』と植民地主義」蘭信三編『日本帝国をめぐる人口移動の国際社会学』,不二出版,2008年,147-175頁の著者原稿です。(福本拓)