日本哲学史専修ホームページ – 京都大学大学院文学研究科・文学部 https://www.bun.kyoto-u.ac.jp 研究科・学部・附属施設紹介、入試情報や研究プロジェクトの案内。 Mon, 17 Apr 2023 01:26:32 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.4.3 2023年度の授業 https://www.bun.kyoto-u.ac.jp/japanese_philosophy/2023%e5%b9%b4%e5%ba%a6%e3%81%ae%e6%8e%88%e6%a5%ad1/ Mon, 10 Apr 2023 03:10:27 +0000 https://www.bun.kyoto-u.ac.jp/?p=65453 日本哲学史研究室ホーム

講  義

教官 上原 麻有子 種別 講義 学部(1回生以上)
曜日・時限 前期 火・5 教室 総合研究2号館 第8講義室
題目 日本哲学史講義1
概要・目的 日本哲学史を①西田幾多郎、②近代日本哲学の発展から京都学派の哲学への二部に分けて日本哲学の形成過程を概観し、さらに、これまで論じられてきた主要問題を通して日本哲学のあり方、意義について検討する。このようにして日本哲学史についての理解を深めることが、授業の目的である。
内容 以下のような課題に基づき、授業を進める予定である。
1 ガイダンス:「日本哲学」の現状
2 西田幾多郎の哲学1
3 西田幾多郎の哲学2
4 西田幾多郎の哲学3
5 西田幾多郎の哲学4
6 明治期から西田幾多郎までの日本哲学史概要
7 明治期から西田幾多郎までの日本哲学史概要
8 井上哲次郎の現象即実在論
9 清沢満之の仏教的哲学
10 平塚らいてうのフェミニズム
11 京都学派の哲学ー概要
12 三木清の哲学
13 戸坂潤の哲学
14 中井正一の哲学
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テキスト・参考文献 授業中に紹介する
教官 上原 麻有子 種別 講義 学部(1回生以上)
曜日・時限 後期 火・5 教室 総合研究2号館 第8講義室
題目 日本哲学史講義2
概要・目的 京都学派とその周辺の哲学者の思想を、いくつかのテーマを追う形で考察することが、この授業の目的である。さらに、講義で考察する日本哲学の問題が、私たち各自の経験においてどのような意義をもつのか、その経験とどのように結びつき得るのかについても検討する。
内容 以下のような日本哲学史上の主要問題を課題とし、授業を進める予定である。
1 ガイダンス
2 翻訳と言語:翻訳から見る哲学と近代日本の問題
3 翻訳と言語:西田幾多郎の翻訳論
4 翻訳と言語:和辻哲郎の「日本語と哲学の問題」
5 芸術の時間論:九鬼周造ー1
6 芸術の時間論:九鬼周造ー2
7 芸術と実存:九鬼周造ー3
8 実存協同:田辺元ー1
9 実存協同:田辺元ー2
10 自他論:西田幾多郎と田辺元ー1
11 自他論:西田幾多郎と田辺元ー2
12 風土:和辻哲郎ー1
13 表現:木村素衞ー1
14 表現:木村素衞ー2
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テキスト・参考文献 授業中に紹介する

特殊講義

教官 上原 麻有子 種別 特殊講義 学部(3回生以上)・大学院
曜日・時限 前期 水・4 教室 総合研究2号館 第10演習室
題目 和辻哲郎の『風土』再考
概要・目的 和辻哲郎の『風土』は、学術的研究として批判を受けながらも、研究対象として今日もさらに新たな考察を生み出している。授業では、先行研究に基づき、和辻自身の「風土」の概念を確認するとともに、自然、歴史性、災害、芸術という観点から「風土」の可能性を検討する。
内容 以下のような課題を通して考察を深めてゆく。
1 ガイダンス―趣旨説明と授業計画
2 『風土』の概説
3 和辻のフッサール受容と批判ー①
4 和辻のフッサール受容と批判ー②
5 オギュスタン・ベルクの風土批判ー①
6 オギュスタン・ベルクの風土批判ー②
7 和辻のハイデガー受容と批判ー歴史性の問題ー①
8 和辻のハイデガー受容と批判ー歴史性の問題ー②
9 自然か風土か―デーヴィッド・ジョンソンの見解―①
10 自然か風土か―デーヴィッド・ジョンソンの見解―②
11 風土としての芸術―①
12 風土としての芸術―②
13 風土と災害
14 風土と災害
15 風土の展望とフィードバック
テキスト・参考文献 教科書は使用しない。
毎回の授業で、講義の資料(要旨・参考文献)を配付する。
教官 大河内 泰樹 種別 特殊講義 学部(3回生以上)・大学院
曜日・時限 前期 金・3 教室 文学部新館 第2講義室
題目 近代哲学古典講読
概要・目的 この授業では、講義担当者の翻訳にもとづいて、ヘーゲルの『精神の現象学』(1807)について講義する。扱うのは「精神章」Bである。精神章Bでは、古代の「法状態」における人倫の解体を経て、中世の封建社会からアンシャンレジームを経てフランス革命までの西欧史が概念的に再構成される。今期は、1.「自分から疎外された精神 陶冶」、I 「疎外された精神の世界」を中心として扱う。ヘーゲルの理解する封建社会においては、個人が社会から切り離され、そこから疎外されると同時に、その疎外構造の中で、国家権力と富(経済)と自己意識と関わり合いながら反転していく帰趨が描かれる。
内容 第1回 ガイダンス
第2回 『精神現象学』および精神章の構造と課題
第3回 自然からの形成=陶冶と疎外
第4回 現実性の国と『ラモーの甥』
第5回 優良と劣悪
第6回 国家権力と富
第7回 自己意識と「国家権力と富」との関係
第8回 判断から推理へ(精神の構造)
第9回 奉仕のヒロイズム
第10回 高潔な意識と下賤な意識
第11回 ことば
第12回 へつらいのヒロイズム
第13回 高潔な意識と下賤な意識の反転/国家権力と富の反転
第14回 「引き裂かれ」のことば
第15回 フィードバック
テキスト・参考文献 『精神現象学』の翻訳については大河内の訳を配布するが、以下の翻訳も手元に置いておくとよいだろう。
樫山欽四郎訳『精神現象学上/下』平凡社ライブラリー、1997年
熊野純彦訳『精神現象学上/下』ちくま学芸文庫、2018年
以下の翻訳は詳細な解説も含んでおり参考になる。
金子武蔵訳『ヘーゲル全集5 精神の現象学 上/下』岩波書店、1979年また、『精神現象学』の概要について知りたい人には以下をお勧めする。
加藤尚武編『ヘーゲル「精神現象学」入門』講談社学術文庫、2012年

精神章B・Iについては以下も参照のこと
ディドロ『ラモーの甥』岩波文庫、1964年

教官 上原 麻有子 種別 特殊講義 学部(3回生以上)・大学院
曜日・時限
後期 水・4
教室 総合研究2号館 第10演習室
題目 「私と汝」の諸問題
概要・目的 西田幾多郎は1932年に論文「私と汝」を発表した。この論文により、それまでの観念論的傾向の強い哲学が、具体的な人間性と現実的社会性を獲得したとも言える。講義では、この転機とも言える思索の思想的、歴史的背景を探るとともに、現実の社会における自他論の意義について、考察する。
内容 以下のような課題を通して考察を深めてゆく。
1 ガイダンス―趣旨説明と授業計画
2 「私と汝」の概説
3 「私と汝」の思想背景ー①
3 「私と汝」の思想背景ー②
4 田辺元の「私と汝」批判ー①
5 田辺元の「私と汝」批判ー②
6 田辺哲学における自他論ー①
7 田辺哲学における自他論ー②
8 西田と田辺の自他論比較ー①
9 西田と田辺の自他論比較ー②
10 ジェシカ・ベンジャミンの自他論ー①
11 ジェシカ・ベンジャミンの自他論ー②
12 西田の「私と汝」の対等性
13 西田の「私と汝」の社会性
14 総論
15 フィードバック
テキスト・参考文献 授業中に紹介する
教官 大河内 泰樹 種別 特殊講義 学部(3回生以上)・大学院
曜日・時限
後期 金・3
教室 文学部新館 第2講義室
題目 近代哲学の古典を読む
概要・目的 この授業では、講義担当者の翻訳にもとづいて、ヘーゲルの『精神の現象学』(1807)について講義する。扱うのは「精神章」Bである。精神章Bでは、古代の「法状態」における人倫の解体を経て、中世の封建社会からアンシャンレジームを経てフランス革命までの西欧史が概念的に再構成される。今期は、I.「自分から疎外された精神 陶冶」、2 「信仰と純粋理知」を中心として、II.「啓蒙」へと進んでいく。ここで描かれる信仰と合理的思考(これが啓蒙を生み出す)の相克がフランス革命を帰結していく。
内容 第1回 ガイダンス
第2回 『精神現象学』および精神章の構造と課題
第3回 純粋意識の現実性
第4回 信仰
第5回 純粋理知
第6回 信仰の構造
第7回 教団
第8回 純粋理知の構造
第9回 啓蒙とは
第10回 啓蒙の信仰との戦い
第11回 誠実さ
第12回 目的の追求
第13回 宗教の効用
第14回 意志
第15回 フィードバック
テキスト・参考文献 『精神現象学』の翻訳については大河内の訳を配布するが、以下の翻訳も手元に置いておくとよいだろう。
樫山欽四郎訳『精神現象学上/下』平凡社ライブラリー、1997年
熊野純彦訳『精神現象学上/下』ちくま学芸文庫、2018年
以下の翻訳は詳細な解説も含んでおり参考になる。
金子武蔵訳『ヘーゲル全集5 精神の現象学 上/下』岩波書店、1979年

また、『精神現象学』の概要について知りたい人には以下をお勧めする。
加藤尚武編『ヘーゲル「精神現象学」入門』講談社学術文庫、2012年

教官 小林 信之 種別 特殊講義 学部(1回生以上)・大学院
曜日・時限 前期 集中講義 教室  その他
題目 「形なきもの」をめぐる省察
概要・目的 ハイデガーは、形相‐質料、形式‐素材の関係が、西欧形而上学の根底にあって支配力をおよぼしつづける思考様式であることを洞察した。だとすれば、かれの存在の思想は「形」との格闘であったということもできる。他方、西田幾多郎は「形なきものの形を見、声なきものの声を聞く」と語った。ここでもまた同様に、西欧哲学と対峙しつつ「形」をめぐってくりひろげられた思考の跡をうかがうことができる。
 この講義は、形と形なきものへの問いに収斂する思想を、日本と西欧の幾人かの哲学者に尋ねて、そこからひろく、美、像、感情、詩といったテーマ系に展開することを試みるものである。具体的には、美における否定性(無関心性ともののあはれ)、像と構想力をめぐる諸問題、ポイエーシスとプラクシス等が主題化される。
内容 おおよそ以下のような内容を順次あつかう予定である(変更の可能性あり)。
1.ガイダンス: 趣旨説明と全体の展望
2.美における否定性(1): カント『判断力批判』の美の分析論から(現象における形としての美と超感性的なもの。美と倫理)
3.美における否定性(2): 無関心性にかんする諸解釈(ショーペンハウアー、ニーチェ、ハイデガー、デリダ)
4.美における否定性(3): 日本近代における受容(大西克礼のもののあはれ論、田邊元の目的論的判断力の解釈ほか)
5.美における否定性(4): 経験の現在性(西田幾多郎ほか)
6.像をめぐる諸問題(1): カントの構想力論とハイデガーによる解釈
7.像をめぐる諸問題(2): 三木清の構想力論
8.像をめぐる諸問題(3): 影像論
9.あはれと悲哀(1): 情態性とエポケーについて
10. あはれと悲哀(2): 不安と世界の非情性
11. あはれと悲哀(3): もののあはれの現象学
12. 詩作について(1): ポイエーシスとプラクシス
13. 詩作について(2): カント「自然の技術」について
14. 詩作について(3): 九鬼周造の詩論
15. 総括とフィードバック
テキスト・参考文献 授業中に紹介する。
教官 中島 隆博 種別 特殊講義 学部1回生以上・大学院
曜日・時限 前期 集中講義 教室 その他
題目 日本の近代思想を読み直す 哲学
概要・目的 日本の近代思想を、哲学者の言説をたどりながら、明治から平成に至るまで通観します。具体的には、中島隆博『日本の近代思想を読み直す 哲学』(東京大学出版会、2023年)、とりわけその「資料編」を一緒に読みながら、日本近代哲学の可能性と限界を考えてみたいと思います。
内容 第1回 日本哲学の系譜学
第2回 二つの啓蒙ーー福沢諭吉と中江兆民
          霊魂不滅論争
第3回 東京学派の哲学
第4回 近代日本における中国哲学
          近代日本におけるインド哲学
第5回 京都学派の礎ーー西田幾多郎
第6回 帝国日本を支える論理ーー田辺元
第7回 フィロロジーの行方ーー和辻哲郎
          偶然性と未来への志向ーー九鬼周造
第8回 ディアスポラの哲学ーー三木清
          マルクス主義哲学ーー戸坂潤
第9回 東北大学で展開した哲学
第10回 戦後民主主義ーー丸山眞男
第11回  戦後マルクス主義哲学ーー梅本克己
            経験と思想ーー森有正
第12回 神秘についてーー井筒俊彦
            立ち現われ一元論ーー大森荘蔵
第13回  共同主観性ーー廣松渉
            あわいの哲学ーー坂部恵
第14回  装飾的思考ーー北川東子
            「自分」という謎ーー池田晶子
第15回 まとめ
テキスト・参考文献 中島隆博『日本の近代思想を読み直す 哲学』(東京大学出版会、2023年) (早ければ2月に出版されますが、遅くとも授業開始前には出版されます)

演  習

教官 上原 麻有子 種別 演習 学部(4回生以上
曜日・時限 通年不定 教室  日本哲学史研究室
題目 卒論演習
概要・目的 授業の目的は次の通りとする。①日本哲学の分野における論文の書き方(表現、論証、資料の調査・活用など)を習得する。②研究報告を行い、口頭による発表・議論の仕方を習得する。③卒業論文を作成する。
内容 授業は、履修者の卒業研究発表とそれに関する議論をもとに進められる。前期の初回はまず、学術論文の書き方について教師の側から指導する。以降、履修者は前期に研究経過報告を、また後期には最終的な報告を、それぞれ口頭で行う。後期の授業終了後の翌週の15回目は、フィードバックの回とする。
テキスト・参考文献 授業中に紹介する
その他 日本哲学史専修の4回生以上については、必修とする。
教官 上原 麻有子 種別 演習Ⅱ
曜日・時限 通年不定 教室  日本哲学史研究室
題目 日本哲学の諸問題
概要・目的 この授業では、日本哲学の主要概念やテーマの理解を深め、また諸問題を自ら新しく掘り起こすことを目的とする。そのために、テキストの読解、研究の口頭発表という二つの方法によって訓練を行う。前期の読解の部では、英語で執筆された文献も取り入れ、同一概念の二言語による説明を理解することで、その本質的な意味や問題点を探究することを目指す。
内容 この授業は、以下の二部で構成される。
前期…I 日本哲学の文献の読解
1 ガイダンス: 読解は担当制とする。読解用の文献を選ぶ。研究発表の担当を決める。
2-3 廣松渉  論文英訳の読解ー①
4-5 廣松渉  論文英訳の読解ー②
6-7 廣松渉  論文英訳の読解ー③
8-9 坂部恵  論文英訳の読解ー①
10-11 坂部恵 論文英訳の読解ー②
12-13 坂部恵 論文英訳の読解ー③
14-15 日本哲学用語の英訳 

後期…II 参加者の研究発表
毎回:一名が口頭発表を行い、それに続いて発表者と参加者が議論する。
1 ガイダンス:発表の担当者と日程を決める。論文の書き方などの指導を行う。
2-3 発表 ー①
4-5 発表 ー②
6-7 発表 ー③
8-9 発表 ー④
10-11 発表 ー⑤
12-13 発表 ー⑥
14-15 発表 ー⑦

テキスト・参考文献 授業中に紹介する。
その他 日本哲学史専修の大学院生については、必修とする。
教官 景山 洋平 種別 演習
曜日・時限 金・3 教室  文学部新館 第1講義室
題目 存在の問いの人間性とその歴史的布置:前期ハイデガーにおける言説実践の研究
概要・目的 本演習では、Martin HeideggerのSein und Zeitおよび全集60巻Phaenomenologie des religioesen Lebens、全集19巻Platon:Sophistesの必要箇所を精読すると共に、当時の新約聖書研究(ブルトマンなど)やプラトン解釈(マールブルク学派など)の文献を考察する。Sein und Zeitの実存論的分析において現存在の本来性を「証し」する良心現象が「呼ぶ者」と「呼ばれる者」の関係により記述されるように、ハイデガーの現象学的存在論はある特定の対話構造に貫かれている。これは現象学を構成するロゴス概念が相互共同的な語りとされることと符合する。Sein und Zeitにおいて、いわば対話を通して、「問う者」としての現存在自身がおのれを見えるようにし、おのれを示すのである。しかるに、『存在と時間』に先だつ諸講義を検討すると、ハイデガーが新約聖書のパウロ書簡やアウグスティヌスの『告白』、そしてプラトンの対話篇がもつ言説実践としての性格に着目していたこと、しかもその際に同時代の聖書学やギリシア哲学研究を意識していたことが分かる。ここから、西洋哲学における言説実践の歴史的系譜が、「存在の問い」を担う人間性(現存在)が実存論的分析を通して語り出される際の<古層>となったことが予想される。この点を考察することは、現象学的存在論における人間概念の歴史的位置と含蓄の理解につながるだろう。本演習では、こうした見込みの元に、参加者とともにSein und Zeitの新たな解釈に取り組みたい。
内容 毎回一名の訳読と報告を行い、それにつづき教員が訳読とテクストの哲学的意義へのコメントを行い、その後は全員で討議する。以下に各回の講読予定を示すが、授業の進度はそのつど前後しうる。毎回2~3頁ほど講読する。
第一回 イントロダクション
第二回~三回 Sein und Zeit, 34節 「語り」概念を中心に
第四回 Sein und Zeit, 7節(B) 「ロゴス」概念を中心に
第五回~六回 Sein und Zeit, 56~57節 「良心」の呼び声の構造を中心に
第七回~九回 Phaenomenologie des religioesen Lebens およびブルトマンなど同時代の新約聖書およびアウグスティヌスの研究文献
第十回~十三回 Platon:Sophistes およびマールブルク学派やシュテンツェルなど当時のプラトン研究文献
第十四回:講読箇所に関する全体的考察
第十五回 フィードバック
テキスト・参考文献 授業で講読箇所をコピーして配布する。ただし、Martin Heidegger, Sein und Zeit, Max Niemeyerは比較的廉価なので、できれば各自購入してほしい。

景山洋平『「問い」から始まる哲学入門』(2021) ISBN:978-4334045708 (第一章で、ハイデガーのロゴス概念から導かれる人間概念の概要を論じています。参照していただけると、授業の理解が遥かに容易になります。)

その他
教官 杉村 靖彦 種別 演習
曜日・時限 水・5 教室  総合研究2号館 第10演習室
題目 Stanislas Breton, “L’Ecole de Kyoto” および関連文献を読む
概要・目的 スタニスラス・ブルトン(1912-2005)は、20世紀後半のフランスのユニークなカトリック哲学者であり、早くから現象学等の現代哲学を縦横に活用する一方で、ネオプラトニズムやキリスト教神秘主義の思想を深くとらえ直して独自の形而上学を展開した。アルチュセールの友人としても知られ、その招聘で一時パリの高等師範学校でも教えた。20世紀終盤における「フランス現象学の神学的転回」の源泉となった思想家でもある。
 授業で扱うのは、このブルトンが1974年に来日し、京都で西谷啓治らが主催する「自然とは何か」と題されたシンポジウムに参加した際の印象を元にした論考「京都学派」(1995)である。「無(rien)」の問題を自らの形而上学に深く組みこむブルトンが、京都での経験と西谷から受けた印象を織り交ぜて自らの「京都学派」像を描いていくこのテクストは、そこに含まれる誤解や一面的な見解も含めて、独自な思索が躍動する間文化的な哲学的対話の貴重なドキュメントとなっている。
 この演習では、ブルトン自身の思想が分かる他の文献や、このシンポジウムの議論を踏まえて西谷が著した論考「自然について」などの関連文献も参照しつつ、テクストを共に精読していきたい。
内容 第1回-第2回 導入
 テクストを読み進める上で必要な導入的説明を教員が行う。3回目以降の担当者を決める。

第3回‐14回
 ブルトンのテクストを精読していく。必要に応じて、関連文献から抜粋した箇所も合わせて読んでいく。各回の担当者は、担当箇所の訳出と内容要約に加え、疑問点の提示や問題提起などを含めた報告を行い、それを受けて教員がコメントと解説を行う。
  
第15回
 著作全体を振り返り、教員との質疑応答や出席者間での討議を行う。

*フィードバックの方法は授業中に指示する。

テキスト・参考文献 Stanislas Breton『L’autre et l’ailleurs』(Descartes&Cie, 1995 ) ISBN:2-910301-26-5 (テキストは適宜コピーを用意する。)
その他

基礎演習

教官 上原 麻有子 / WIRTZ,Fernando Gustavo 種別
基礎演習 学部(1回生以上)
曜日・時限 前期 木・5 教室 総合研究2号館 第10演習室
題目 日本哲学の立場から見た現代日本の社会政治問題 / Socio-political Problems in Contemporary Japan from the Perspective of Japanese philosophy
概要・目的 この授業では、日本哲学の立場から現代日本におけるさまざまな社会問題について考えます。この授業で、フェミニズム、人種差別、イデオロギーなどのトピックについて議論します。 現代社会がいかにマイノリティに対して多くのステレオタイプや抑圧的な構造を構築しているかを学びます。

In this class we will reflect about different social problems in contemporary Japan from the perspective of Japanese philsoophy. In this class we will discuss topics such as feminism, racism and ideology. We will learn how our contemporary society reproduces many stereotypes and oppressive structures towards minorities.

内容 授業計画は以下の通りであるが、ゲストスピーカーの先生方による授業も予定されている。以下の課題の順序や細部が多少変更されることもある。

第1回 ガイダンス 
第2回 多文化主義 (西田幾多郎)
第3回 多文化主義 (西田幾多郎)
第4回 フェミニズム(山川菊栄)(担当者:有坂陽子)
第5回 フェミニズム(山川菊栄) (担当者:有坂陽子)
第6回 レイシズム(人種差別)(担当者:有坂陽子)
第7回 レイシズム(人種差別)(担当者:有坂陽子)
第8回 技術の哲学 (三木清)  
第9回 技術の哲学 (三木清)  
第10回 身体の問題 (西田幾多郎)
第11回 身体の問題 (西田幾多郎)
第12回 デジタル時代の政治  (戸坂潤)
第13回 デジタル時代の政治 (戸坂潤)
第14回 デジタル時代の政治 (戸坂潤)
第15回 まとめ

参考書等 授業中に紹介する。
教官 藤貫 裕 種別
基礎演習 学部(1回生以上)
曜日・時限 後期 木・2 教室 文学部新館 第7演習室
題目 九鬼周造の時間論と偶然論(講読)
概要・目的
本基礎演習では、近代日本の哲学者九鬼周造(1888-1941)の論文集『人間と実存』(1939)に収録された二つの論文「形而上学的時間」(1931)と「驚きの情と偶然性」(1939)を講読する。
 九鬼をはじめとする日本の哲学者(特に西田幾多郎や田辺元といった京都学派の哲学者)の文献読解における困難の一つとして、論述の射程の広さと密度の濃さが挙げられる。例えば今回取り上げる九鬼の二論文では、身近な出来事(例 山の中で蛇を見かけることや四季の移り変わり)から形而上学的な話題(例 世界全体の偶然性や時間的回帰)までが、古今東西の哲学思想を縦横に参照しながら、整然とかつ凝縮された仕方で論じられており、読解は一筋縄にはいかない。そこで本演習では、参加者同士で議論しながらそれらの論述を丁寧に読みほぐすことで、日本哲学史研究全般にも通じる精読の「基礎体力」をつけるとともに、読解の「こつ」を掴むことが目指される。
内容 毎回一名が講読範囲に関する報告(要約と問題提起)を行った後、講師を含む参加者全員でコメントやディスカッションを行う。講読範囲は授業の進度によって前後しうるが、原則として各回に一節(数頁程度/区切りは論文の節立てに従う)ずつ取り扱う予定である。各回の予定は以下の通り。

第一回 イントロダクション―九鬼周造とテクスト紹介・担当者決め
第二回 「形而上学的時間」(一)―時間の無限性
第三回 「形而上学的時間」(二)―業報輪廻と万物再生
第四回 「形而上学的時間」(三)―現象学的時間と形而上学的時間(1)
第五回 「形而上学的時間」(四)―現象学的時間と形而上学的時間(2)
第六回 「形而上学的時間」(五)―形而上学的時間における宿命性と意志
第七回 これまでの補足と振り返り(時間論)
第八回 「驚きの情と偶然性」(一)―偶然性の意味
第九回 「驚きの情と偶然性」(二)―偶然と驚き
第十回 「驚きの情と偶然性」(三)―哲学史と心理学における驚き
第十一回 「驚きの情と偶然性」(四)―現実世界の偶然性と驚き
第十二回 「驚きの情と偶然性」(五)―包越としての原始偶然と驚き
第十三回 これまでの補足と振り返り(偶然論)
第十四回 総まとめ(全体)
第十五回 フィードバック

参考書等 九鬼周造『人間と実存』(岩波文庫、2016年) ISBN:9784003314654
その他

 

前年度までの授業

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2022年度の授業 https://www.bun.kyoto-u.ac.jp/japanese_philosophy/2022%e5%b9%b4%e5%ba%a6%e3%81%ae%e6%8e%88%e6%a5%ad/ Thu, 24 Mar 2022 02:45:54 +0000 https://www.bun.kyoto-u.ac.jp/?p=60671 日本哲学史研究室ホーム

講  義

教官 上原 麻有子 種別 講義 学部(2回生以上)
曜日・時限 前期 火・5 教室 総合研究2号館 第8講義室
題目 日本哲学史講義1
概要・目的 日本哲学史を①西田幾多郎、②近代日本哲学の発展から京都学派の哲学への二部に分けて日本哲学の形成過程を概観し、さらに、これまで論じられてきた主要問題を通して日本哲学のあり方、意義について検討する。このようにして日本哲学史についての理解を深めることが、授業の目的である。
内容 以下のような課題に基づき、授業を進める予定である。
1 ガイダンス:「日本哲学」の現状
2 西田幾多郎の哲学1
3 西田幾多郎の哲学2
4 西田幾多郎の哲学3
5 西田幾多郎の哲学4
6 明治期から西田幾多郎までの日本哲学史概要
7 明治期から西田幾多郎までの日本哲学史概要
8 井上哲次郎の現象即実在論
9 清沢満之の仏教的哲学
10 平塚らいてうのフェミニズム
11 京都学派の哲学ー概要
12 三木清の哲学
13 戸坂潤の哲学
14 中井正一の哲学
15 フィードバック
テキスト・参考文献 授業中に紹介する
教官 上原 麻有子 種別 講義 学部(2回生以上)
曜日・時限 後期 火・5 教室 総合研究2号館 第8講義室
題目 日本哲学史講義2
概要・目的 京都学派とその周辺の哲学者の思想を、いくつかのテーマを追う形で考察することが、この授業の目的である。さらに、講義で考察する日本哲学の問題が、私たち各自の経験においてどのような意義をもつのか、その経験とどのように結びつき得るのかについても検討する。
内容 以下のような日本哲学史上の主要問題を課題とし、授業を進める予定である。
1 ガイダンス
2 翻訳と言語:翻訳から見る哲学と近代日本の問題
3 翻訳と言語:西田幾多郎の翻訳論
4 翻訳と言語:和辻哲郎の「日本語と哲学の問題」
5 偶然と実存:九鬼周造ー1
6 偶然と実存:九鬼周造ー2
7 偶然と実存:九鬼周造ー3
8 偶然と実存:九鬼周造ー4
9 京都学派の論理:西田幾多郎ー1
10 京都学派の論理:西田幾多郎ー2
11 京都学派の論理:田辺元ー1
12 京都学派の論理:田辺元ー2
13 日本の倫理学:和辻哲郎ー1
14 日本の倫理学:和辻哲郎ー2
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テキスト・参考文献 授業中に紹介する

特殊講義

教官 上原 麻有子 種別 特殊講義 学部(3回生以上)・大学院
曜日・時限 前期 水・5 教室 文学部新館 第5講義室
題目 叡智的世界の哲学ー1感覚と感情
概要・目的 本講義は2022年度の前期と後期の二部構成で行う。前期は、西田幾多郎をはじめとする京都学派の哲学者における感覚と感情の理解を探り、さらに彼らの哲学理論が感覚・感情と表現方法との連関をどのようにつけたのか、確認することを目的とする。西田哲学の構造の中に位置づけられる叡智的世界に注目し、感覚と感情を「論理」という観点から検討することも、この講義の重要な課題である。また、表現方法は実に多様なものが想定されるが、講義では芸術表現を取り上げることにする。そこで、抽象度の高い哲学理論と表現という実践をいかに接続するのかを検討する。西田や田辺元の思想の抽象性の高さを克服するような叡智的世界の哲学の道を探ることも本講義の一つの目的である。
内容 以下のような課題を通して考察を深めてゆく。
1 ガイダンス―趣旨説明と授業計画
2 西田幾多郎における感覚と感情の理解ー①
3 西田幾多郎における感覚と感情の理解ー②
4 「場所」の叡智的世界に感覚と感情を位置づけるー①
5 「場所」の叡智的世界に感覚と感情を位置づけるー②
6 九鬼周造における感覚と感情の理解
7 三木清における感覚と感情の理解
8 中井正一における感覚と感情の理解
9 木村素衛における感覚と感情の理解
10 深田康算における感覚と感情の理解
11 感覚と感情の表現方法ー1
12 感覚と感情の表現方法ー2
13 理論と実践の問題ー抽象の克服-1
14 理論と実践の問題ー抽象の克服-2
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テキスト・参考文献 授業中に紹介する
教官 大河内 泰樹 種別 特殊講義 学部(3回生以上)・大学院
曜日・時限 後期 金・3 教室 文学部新館 第2講義室
題目 ヘーゲルの『精神現象学』における個人と社会
概要・目的 この授業では、講義担当者の翻訳にもとづいて、ヘーゲルの『精神の現象学』(1807)について講義する。扱うのは「理性章」BおよびCである。理性章では、自己意識章を通じて獲得された「一切の実在性である」という意識の確信から、意識章からの対象認識と自己意識の実践とがより高次の立場で捉え返されている。B、C節では特に社会共同体への個人の実践的関与のあり方について記述しており、社会哲学的にも、また行為論的にも興味深い議論が展開されている。そのテキストの検討を通じて、個人と社会、および近代社会についてのヘーゲルの見解を検討していく。
内容 第1回 ガイダンス
第2回 B.理性的自己意識の自分自身による実現
第3回 a. 快と必然性
第4回 b. 心の法則と自負の狂気
第5回 c.徳と世間
第6回 C. 自らにとって即かつ対自的に実在的な個体性
第7回 個体性
第8回 事そのもの
第9回 欺瞞
第10回 立法する理性
第11回 法を検証する理性
第12回 理性の到達点
第13回 行為論と道徳論
第14回 理性と精神
第15回 まとめ
テキスト・参考文献 『精神現象学』の翻訳については大河内の訳を配布するが、以下の翻訳も手元に置いておくとよいだろう。
樫山欽四郎訳『精神現象学上/下』平凡社ライブラリー、1997年
熊野純彦訳『精神現象学上/下』ちくま学芸文庫、2018年
以下の翻訳は詳細な解説も含んでおり参考になる。
金子武蔵訳『ヘーゲル全集5 精神の現象学 上/下』岩波書店、1979年また、『精神現象学』の概要について知りたい人には以下をお勧めする。
加藤尚武編『ヘーゲル「精神現象学」入門』講談社学術文庫、2012年
教官 上原 麻有子 種別 特殊講義 学部(3回生以上)・大学院
曜日・時限
後期 水・5
教室 文学部新館 第5講義室
題目 叡智的世界の哲学ー2 音楽
概要・目的 本講義は「叡智的世界の哲学」の第2部であり、前期の講義の副題にあった「1感覚と感情」という課題に続き、 「音楽」に焦点を当てて考察する。西田幾多郎や田辺元の哲学の抽象性を克服するための思考について検討することを、一つの根本的検討事項とし、その一つの例として音楽におけるいくつかの問題を哲学理論、身体論、前期に考察した感情・感覚論の面から検討することを目的とする。感覚・感情の身体を通した表現のプロセスを、科学的方法、偶然的方法、即興的方法という観点から分析してみたい。
内容 以下のような課題を通して考察を深めてゆく。
1 ガイダンス―趣旨説明と授業計画
2 音楽性の問題ー概要
3 音楽性の問題ー西田幾多郎
3 音楽性の問題ー中井正一
4 音楽性の問題ー九鬼周造
5 音楽性の問題ー田辺元
6 ヴァレリーによる音楽の理論と実践ー1
7 ヴァレリーによる音楽の理論と実践ー2
8 哲学と音楽ー1
9 哲学と音楽ー2
10 哲学と音楽ー3
11 音楽の科学的方法・偶然的方法・即興的方法ー1
12 音楽の科学的方法・偶然的方法・即興的方法ー2
13 音楽の科学的方法・偶然的方法・即興的方法ー3
14 音楽の科学的方法・偶然的方法・即興的方法ー4
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テキスト・参考文献 授業中に紹介する
教官 杉村 靖彦 種別 特殊講義 学部(3回生以上)・大学院
曜日・時限
後期 水・4
教室 第6講義室
題目 西谷宗教哲学の研究(2)
概要・目的 西谷啓治(1900-1990)は、西田、田辺の後の京都学派の第三世代を代表する哲学者であり、大乗仏教の伝統を換骨奪胎した「空の立場」から「ニヒリズム以後」の現代の思索の可能性を追究したその仕事は、没後30年を経て国内外で多方面からの関心を引きつつある。しかし、その全体を組織的に考察した本格的な研究は、まだほとんどないと言ってよい。
本講義は、この西谷宗教哲学の全体を通時的かつ網羅的に研究し、今後の土台となりうるような組織的な理解を形成しようとするものである。それによって、今日の宗教哲学がそこから何を受けつぐことができるかを、批判的に考究していくための拠点を手に入れることを目指す。
この研究は、昨年度後期から開始されたものであり、今期の授業はその続きであるが、来年度以降も後期の特殊講義をあて、数年かけて進めていく予定である。1924年の西谷の卒論を扱った昨年度に続いて、今年度は1930年代までの諸論考を主に扱っていきたい。
内容 以下の諸テーマについて、一つのテーマ当たり2~4回の授業をあてて講義する。
(「特殊講義」という、教員の研究の進展をダイレクトに反映させることを旨とする授業であるので、1回ごとの授業内容を細かく記すことはしない。また、以下の諸テーマにしても、細部については変更の可能性がある。)

1.導入―西谷宗教哲学の受け取り直しのために
2.卒論の到達点と西谷宗教哲学の端緒―昨年度の授業の要約
3.「悪の問題」への着手―西谷宗教哲学の導きの糸として
4.哲学的神秘主義と根源的主体性―前期西谷宗教哲学の二つの焦点
5.真に「現(Da)」なる処-『アリストテレス論攷』とハイデガーのアリストテレス論の並行的読解

なお、最後の授業は、本学期の講義内容全体をめぐる質疑応答と議論の場とし、講義内容の受講者へのフィードバックを図る。

テキスト・参考文献 授業中に紹介する
教官 直江 清隆 種別 特殊講義 学部(3回生以上)・大学院
曜日・時限 前期 集中講義 教室  未定
題目 廣松哲学とドイツ哲学
概要・目的 廣松渉は戦後を代表する哲学者の1人である。その独自の哲学は、関係の第一次性,事的世界観,四肢構造、共同主観性などのキー概念で知られ、その扱う主題も認識論、科学論、身体論、価値論、社会哲学など広範囲にわたっている。
本講義では廣松哲学における幾つかのトピックスを取り上げ、背景となるドイツ哲学と関連付けながら批判的に討究することにより、彼の哲学体系の一端を解きほぐしていくことを目指す。このことはまた、20世紀後半の日本哲学の動向を理解することに繋がるはずである。
内容 基本的に以下のプランに従って講義を進める。ただし講義の進みぐあい、受講者の関心などに応じて順序や同一テーマの回数などを変えることがある。
第1回  20世紀哲学と廣松哲学/『存在と意味』の体系構想
第2回  「もの」から「こと」へ 関数概念と関係主義
第3回   四肢構造論①  マッハの現象主義との対峙
第4回   四肢構造論②   
第5回   視覚的世界と身心の問題
第6回   表情的世界と身心の問題 
第7回   表情的世界と共同主観性
第8回   判断論の問題構成① 新カント学派
第9回   判断論の問題構成② 対象論、現象学など
第10回  判断をめぐる戦前日本哲学の遺構
第11回  学知的反省と当事者意識 
第12回  役割行為論
第13回  物象化論の射程①
第14回  物象化論の射程②
第15回  近代の超克?
テキスト・参考文献 廣松渉『世界の共同主観的存在構造』(岩波文庫 2017) ISBN:4003812417
廣松渉(熊野純彦編)『廣松渉哲学論集』(平凡社ライブラリー 2009) ISBN:4582766781
廣松渉『廣松渉著作集 第1巻-第15巻』(岩波書店 1996)
教官 板橋 勇仁 種別 特殊講義 1回生以上
曜日・時限 前期 集中講義 教室 未定
題目 身体論としての西田哲学の研究
概要・目的 後期西田哲学に身体論が展開されていることはよく知られている。しかしこの身体論に焦点を当てた研究成果はまだ多くない。なぜであろうか。西田哲学の出発点は処女作『善の研究』であるが、この『善の研究』にある身体論には注目されてこなかった。そして『善の研究』の身体論から理解してゆかない限り、後期西田哲学の身体論の意義とその射程も明らかにならないであろう。しかも西田哲学の身体論は一貫して、現代日本の身体を取り巻く状況に対して鋭い問題提起を突きつけてくる。初期・後期の西田哲学の身体論を理解し、それを現代の身体の状況と照らし合わせるために、以上の問題意識に基づいた拙著『こわばる身体がほどけるとき』を講読する。あわせて拙著が依拠する西田の著作をも具体的に検討し、そのうえで参加者で積極的に議論したい。拙著については、もう一度中心線を骨太に描き直すと共に、拙著には盛り込めなかった、多様な伏線をできる限り追ってみたい。
内容 第1回 ガイダンス
第2回 現代の身体の状況
第3回 『善の研究』における「経験の場」(1)
第4回 『善の研究』における「経験の場」(2)
第5回 『善の研究』における「身体」
第6回 『善の研究』における「唯一実在の分化発展」
第7回 『善の研究』における「主観的自己」と生
第8回 『善の研究』の身体論の持つ意義
第9回 前半のまとめと中期西田哲学
第10回 後期西田哲学における「経験の場」と「制作」(1)
第11回 後期西田哲学における「経験の場」と「制作」(2)
第12回 後期西田哲学における「身体」(1)
第13回 後期西田哲学における「身体」(2)
第14回 西田哲学の身体論の現代的意義(1)
第15回 西田哲学の身体論の現代的意義(2)
テキスト・参考文献 【教科書】
板橋勇仁『こわばる身体がほどけるとき』(現代書館)
西田幾多郎『善の研究』(岩波文庫)
【参考書等】
西田幾多郎『西田幾多郎哲学論集Ⅰ』(岩波文庫)
西田幾多郎『西田幾多郎哲学論集Ⅱ』(岩波文庫)
西田幾多郎『西田幾多郎哲学論集Ⅲ』(岩波文庫)
その他の文献については授業中に紹介する。

演  習

教官 上原 麻有子 種別 演習 学部(4回生以上
曜日・時限 通年不定 教室  日本哲学史研究室
題目 卒論演習
概要・目的 授業の目的は次の通りとする。①日本哲学の分野における論文の書き方(表現、論証、資料の調査・活用など)を習得する。②研究報告を行い、口頭による発表・議論の仕方を習得する。③卒業論文を作成する。
内容 授業は、履修者の卒業研究発表とそれに関する議論をもとに進められる。前期の初回はまず、学術論文の書き方について教師の側から指導する。以降、履修者は前期に研究経過報告を、また後期には最終的な報告を、それぞれ口頭で行う。後期の授業終了後の翌週の15回目は、フィードバックの回とする。
テキスト・参考文献 授業中に紹介する
その他 日本哲学史専修の4回生以上については、必修とする。
教官 上原 麻有子 種別 演習Ⅱ
曜日・時限 通年不定 教室  日本哲学史研究室
題目 日本哲学の諸問題
概要・目的 この授業では、日本哲学の主要概念やテーマの理解を深め、また諸問題を自ら新しく掘り起こすことを目的とする。そのために、テキストの読解、研究の口頭発表という二つの方法によって訓練を行う。前期の読解の部では、英語で執筆された文献も取り入れ、同一概念の二言語による説明を理解することで、その本質的な意味や問題点を探究することを目指す。
内容 この授業は、以下の二部で構成される。
前期…I 日本哲学の文献の読解
1 ガイダンス: 読解は担当制とする。読解用の文献を選ぶ。研究発表の担当を決める。
2-3 西田幾多郎の「場所」 とその英訳の読解ー①
4-5 西田幾多郎の「場所」 とその英訳の読解ー②
6-7 西田幾多郎の「場所」 とその英訳の読解ー③
8-9 西田幾多郎の「場所」 とその英訳の読解ー④
10-11 西田幾多郎の「行為的直観」 とその英訳の読解ー①
12-13 西田幾多郎の「行為的直観」 とその英訳の読解ー②
14-15 西田幾多郎の「行為的直観」 とその英訳の読解ー③

後期…II 参加者の研究発表
毎回:一名が口頭発表を行い、それに続いて発表者と参加者が議論する。
1 ガイダンス:発表の担当者と日程を決める。論文の書き方などの指導を行う。
2-3 発表 ー①
4-5 発表 ー②
6-7 発表 ー③
8-9 発表 ー④
10-11 発表 ー⑤
12-13 発表 ー⑥
14-15 発表 ー⑦

テキスト・参考文献
その他 日本哲学史専修の大学院生については、必修とする。
教官 景山 洋平 種別 演習
曜日・時限 金・3 教室  第2講義室
題目 現象学における人間論とその歴史的境界 ー ハイデガーと京都学派の諸著作から
概要・目的 本演習では、Martin Heideggerの四つのテキスト(Sein und Zeit, Kant und das Problem der Metaphysik, Beitraege zur Philosophie, Unterwegs zur Sprache)の必要箇所を精読し、現象学的存在論における人間の位置を考察する。これと並行して、京都学派の著作(西田幾多郎『善の研究』/『場所的論理と宗教的世界観』、田辺元「人間学の立場」/「生の存在学か死の弁証法か」、九鬼周造「日本詩の押韻」)の必要箇所を参照し、現象学との関係を考察する。現象学的存在論における人間概念は「有限性の超越論」(フーコー)や「人間中心主義」(デリダ)と理解されがちであり、こうした理解はミシェル・アンリなどフランス現象学の歴史的展開と大なり小なり連動している。しかし、ハイデガーの思索の変容はこうした解釈に収まらない人間論の可能性を示唆する。本演習では、京都学派との関係に力点を置くことで、現象学的存在論のこうした潜在力を、なにがしか異質な歴史的地平との関係から検討したい。
内容 毎回一名の訳読と報告を行い、それにつづき教員が訳読とテクストの哲学的意義へのコメントを行い、その後は全員で討議する。以下に各回の講読予定を示すが、授業の進度はそのつど前後しうる。毎回2~3頁ほどハイデガーを講読する他、必要に応じて京都学派のテクストを参照する。

第一回 イントロダクション
第二回~四回 Sein und Zeit, Einleitungを中心に
第五回~七回 Kant und das Problem der Metaphysik. 図式機能論と自己触発論を中心に
第八回~十回 Beitraege zur Philosophie. 第五部 “Gruendung“と第八部”Seyn”を中心に
第十一回~十三回 Unterwegs zur Sprache. 論稿“Die Sprache”と”Das Wort”を中心に
第十四回 講読箇所に関する全体的考察
第十五回 フィードバック

テキスト・参考文献 授業で講読箇所をコピーして配布する。ただし、Martin Heidegger, Sein und Zeit, Max Niemeyerは比較的廉価なので、できれば各自購入してほしい。
その他
教官 安部 浩 種別 演習
曜日・時限 木・2 教室  人環棟333演習室
題目 シェリングの自由論
概要・目的 カント、フィヒテ、ヘーゲル等の哲人。ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン等の楽聖。これらの巨人に伍して空前絶後の精神の運動を牽引しつつ、百花繚乱の「ゲーテの時代」を駆け抜けた早熟の天才がいた。F.W.J. シェリングである。
 彼が遺した数多の著述・講義録の中でも、『人間の自由の本質』こそは蓋し最重要作の一つである。では本著作において、「哲学における最内奥の中心点」と自らが見做す「必然性と自由の対立」なる問題にシェリングはいかなる仕方で挑むのか。「ドイツ観念論の形而上学の頂点」(ハイデガー)と評される当該著作を冒頭から繙読し、議論を戦わせていくことで、われわれは、自由、汎神論、悪、無底等をめぐる問題系の考察に努めることにしよう。そしてそれにより、語学・哲学上の正確な知識、及び論理的思考力に基づく原典の厳密な読解力を各人が涵養すること、そしてこの読解の過程において浮上してくる重要な問題をめぐる参加者全員の討議を通して、各人が自らの思索を深化させていくことが、本演習の目的である。
内容 原則的には毎回、予め指名した二名の方にそれぞれ、報告と演習の記録を担当して頂くことにする。ここに各回に扱う予定である原典の範囲を記すが、授業の進度については出席者各位の実力を勘案して修正することもある。
 以下、内容の梗概に続き、括弧内に教科書の頁番号を(また適宜、斜線を付して行番号をも)示す。
1. ガイダンスと前期の復習
2. 「悪の現実性の演繹・その3」(52/30-55/22)
3. 「悪の現実性の演繹・その4」(55/23-59)
4. 「悪の現実性の演繹・その5」(60-63/18)
5. 「悪の現実性の演繹・その6」(63/19-66/4)
6. 「神の自由・その1」(66/5-70/29)
7. 「神の自由・その2」(70/30-/75/10)
8. 「神の自己啓示の目標ー愛の全一性・その1」(75/11-79/17)
9. 「神の自己啓示の目標ー愛の全一性・その2」(79/18-82/8)
10. 「神の自己啓示の目標ー愛の全一性・その3」(82/8-84/31)
11. 「神の自己啓示の目標ー愛の全一性・その3」(84/32-87)
12. 辻村公一「無底ーシェリング『自由論』に於ける」
13. 薗田坦「無底・意志・自然ーJ.ベーメの意志-形而上学について」
14. 総括と総合討論
15. フィードバック
テキスト・参考文献 【教科書】
F. W. J. Schelling『Ueber das Wesen der menschlichen Freiheit』(Meiner) ISBN:3-7873-1590-X Philosophische Bibliothek 503
辻村公一 『ドイツ観念論断想Ⅰ』(創文社)
薗田坦『無底と意志-形而上学ーヤーコブ・ベーメ研究』(創文社) ISBN:978-4-423-17158-5
【参考書等】
シェリング 『人間的自由の本質』(岩波書店) ISBN:4-00-336312-4 岩波文庫・青631-2
F. W. J. Schelling『Philosophical Inquiries into the Nature of Human Freedom』(Open Court) ISBN:087548025X
その他

基礎演習

教官 上原 麻有子 / WIRTZ,Fernando Gustavo 種別
基礎演習 学部(2回生以上)
曜日・時限 前期 木・5 ※時限が変更になりました(4/4付) 教室 第10演習室 ※教室が変更になりました(4/4付)
題目 京都学派の哲学―技術、文化をめぐる問い
概要・目的 京都学派とその周辺の哲学者の思想を技術(あるいはテクノロジー)、文化の哲学的問題を追う形で考察することが、この授業の目的である。特に、京都学派の哲学が、どのように現代のテクノロジーの問題と結びついているのかについて焦点を当てて考察する。
技術とは何か。哲学は、技術とどのように異なるのか。技術と芸術の関係はどのようなものか。日本哲学史はどのように理解すればよいか。京都学派の哲学の特徴とは何か。文化と技術の関係とはどのようなものか。技術は普遍的な現象なのか、それとも文化によって決まるものなのか。日本独自の技術はあるのか。
授業は演習と講義の両方の形式を取り、履修者との議論の時間も十分に取る予定である。
内容 授業計画は以下の通りであるが、ゲストスピーカーの先生方による授業も予定されている。以下の課題の順序や細部が多少変更されることもある。

第1回 ガイダンス 上原、Wirtz
第2回 西田幾多郎の「物を作る」論理 上原
第3回 三木清の人間と社会の哲学 Wirtz
第4回 九鬼周造の哲学 Simon Ebersolt(ゲストスピーカー)
第5回 九鬼周造の哲学 Simon Ebersolt
第6回 九鬼周造の哲学 Simon Ebersolt
第7回 システムと未来予測 1)大森荘蔵の時間論と未来予測(気候変動など) 佐藤麻貴(ゲストスピーカー)
第8回 システムと未来予測 2)AIとロボット 佐藤麻貴
第9回 システムと未来予測 3)総論 佐藤麻貴
第10回 中井正一の映画論・美学論 Wirtz、上原
第11回 戸坂潤の技術哲学と技術論論争 Wirtz
第12回 戸坂潤の技術哲学 Wirtz
第13回 三枝博音の技術哲学 Wirtz
第14回 現代における技術の問題 Wirtz、上原
第15回 まとめ 上原、Wirtz

参考書等 授業中に紹介する
教官 中嶋 優太 種別
基礎演習 学部(2回生以上)
曜日・時限 後期 木・3、木・4 教室 第7演習室
題目 西田幾多郎『善の研究』を読む
概要・目的
本基礎演習では日本哲学史研究へ入門として、また他の専門の学生が日本哲学に触れる機会として、日本哲学の基礎文献である西田幾多郎『善の研究』の講読を行う。
 『善の研究』(1911年)は、日本人が書いたものとしては、最初の独創的で体系的な哲学書とも評され、世界的に最もよく研究されているテクストである。近代西洋哲学の枠組みに学んだ上で、心理学をはじめとする科学的思考を貪欲に取り込み、また近代以前の日本思想の影響も受けたこのテクストは、さまざまな要素が絡み合い、多様な観点からの読解に開かれている。
(※授業は隔週で行う) 
内容 『善の研究』の中心思想である「意識現象が唯一の実在である」という純粋経験説および善と自由に関する倫理思想が理解できるように、第2編、第3編をそれぞれ数章ずつ読み進める。
受講生はそれぞれ担当箇所を決め、ディスカッションのきっかけとなるように、テクストを読んだ上で気になった点や疑問点について簡単な発表を行う。

授業計画は以下の通りである。

第1・2回 イントロダクション(『善の研究』というテクストの紹介、第2編「実在」の概要、担当箇所の決定)
第 3・ 4回 第2編第1章「考究の出立点」 
第 5・ 6回 第2編第2章「意識現象が唯一の実在である」 
第 7・ 8回 第2編「実在」のまとめ 第3編「善」の概要
第 9・10回 第3編第3章「意志の自由」
第11・12回 第3編第9章「善(活動説)」
第13・14回 第3編第10章「人格的善」
第15回 まとめ

参考書等 西田幾多郎(注解・解説 藤田正勝)『善の研究』(岩波文庫〔2012年改版〕) ISBN:978-4-00-331241-4 (2012年に改版されたものを用意するようにして下さい。)
それ以外の資料については授業時にプリントアウトして配布する。
その他

 

前年度までの授業

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思想家紹介 土井虎賀寿 https://www.bun.kyoto-u.ac.jp/japanese_philosophy/jp-doi_guidance/ Fri, 28 Jan 2022 01:45:13 +0000 https://www.bun.kyoto-u.ac.jp/?p=60049 土井虎賀寿 1902-1971(明治35-昭和46)

略 歴

土井(旧姓:久保)虎賀壽は、1902年2月19日、香川県木田郡坂ノ上村大字上田井字川久保(現在高松市由良町622)に、父久保良造と母登泉の長男として誕生した。1926年京都帝国大学文学部哲学科を卒業、その後、5年間にわたり同大学文学部大学院に特待生として在籍し、西田幾多郎や田辺元、天野貞祐らに学んだ。1929年4月、第三高等学校講師に着任(1941年より教授に就任)、その後広島文理大学講師、京都大学文学部講師、同大学法学部講師をつとめた。1948年には、第三高等学校教授および京都大学法学部講師を辞任した後、東京大学文学部大学院に入学し、二年間仏文学を専攻した。1953年4月より、相模女子大学教授ならびに学習院大学講師に歴任。また、同年から、東大寺の委嘱により大仏開眼千二百年記念事業の一端である「大方広仏華厳経」のドイツ語訳に着手。1964年3月に相模女子大学教授を辞任後、4月より獨協大学教授に就任した。なお、この前年に、足掛け十一年にわたる華厳経の翻訳を完成させており、全四巻が死後出版されている(全四巻)。1971年3月10日に東京都の稲城中央病院で死去、享年69歳。
 土井の業績として挙げられるのは、まずは『華厳経』ドイツ語訳の完訳である。土井はそれまで、主著と呼べるようなまとまった著作を遺していない。そのため、例えば西谷啓治からは「何一つやり遂げたことがない」と揶揄されたこともある。土井自身、それを自評としても受け入れていた。しかし、その土井が成就したドイツ語訳は、死後出版され、2008年にはAngkor Verlagより再刊され、現在まで読み継がれている。なお、土井によるドイツ語の華厳経入門はハイデガーの目に留まり、ハイデガーから謝辞を記した手紙を受けている。
 また、教育者としての土井の功績も見逃すことは出来ない。土井は、戦後、突如教授や講師職を辞して大学院生に転身するなど、数々の突飛な言動があった。それ故「異端児」、「奇人哲学者」と評されることもある。しかし一方で「土井(どい)虎(とら)」の愛称で、とりわけ教え子から親しまれていた。土井最後の論文集『時間と永遠』(1974)の編集・企画を務めた仏文学者の粟津則雄(1927- )や筑摩書房元社長の竹之内静雄(1913-1997)をはじめ、ノーベル物理学賞受賞者の江崎玲於奈(1925-)も土井の教え子である。「彼の理想に燃えて学問に取りつかれた心は学生たちの心をもとらえて離さず、われわれを論理の世界に引きずり込みました」(江崎玲於奈「個の創造性を大切に」『平成19年版科学技術白書』)という江崎の評は、教育者としての土井が、教え子たちを如何に感化したかをよく伝えている。
学生時代に師事した西田幾多郎をはじめ、田辺元や天野貞祐らとは、書簡などを通じて人間的、思想的交流が生涯にわたり続いた。とりわけ天野は、土井を高く評価し獨協大学に招聘するなど、公私ともに彼を支え続けた。

思 想

土井の生涯にわたる思索の中心には、華厳経とゲーテがあった。土井は、1928年終わりから約一年半、京都の妙心寺で高山岩男、稲津紀三、鹿野治助らと共に華厳経について勉強し、その成果を「大悲の論理学」(1930)にまとめた。その後、1953年に華厳経のドイツ語訳に取り組むが、以降、華厳思想、とりわけ「事々無礙」や「性起」の概念、それにまつわる諸問題が、土井の思索の中心的課題となった。また、ゲーテにおける「自然」や「敬虔性」を巡る考察思索は、初期のゲーテ論から遺作「非人称的世界(エスヴェルト)と象徴世界(ジンボルヴェルト)」(『時間と永遠』1974)に至るまで、土井の思索の導きの糸となった。
 土井自身が語っている通り、彼の「思索を導く大前提」は、「時間と永遠、人間と神の関係」であった。この根本テーマを支える土井の思想とは一言で「有限(時間・人間)と無限(永遠・神)とは自己否定を介して媒介的に成立する」ということであろう。土井は、まずこの考えを、ゲーテの概念「敬虔性(Ehrfurcht)」(『ゲーテ箴言抄』)や、ニーチェの「生成」(『生成の形而上学序論 第一部』)という思想的モチーフを手掛かりとし展開する。そこで論じられたのは、有限が自己否定を通じて無限に転換するという問題であった。さらに、浄土思想における「大悲」や華厳経の「性起」といった論議を検討する中で、有限(人間・衆生)と無限(神・仏)の「切断」および「相互媒介」が強調されるようになる。それはつまり、自己と絶対的に異なる他者による否定的媒介を通じてのみ、互いが真の主体性として成立するということである。土井は、このような事態を「華厳の事々無礙と三界唯心」(『時間と永遠』)において、「衆生は仏に媒介されて始めて衆生であり、衆生は仏に媒介されて始めて衆生である」と端的に述べている。そして土井は、神(仏)と人間(衆生)の関係のみならず、「時間」と「永遠」、また「物」と「主体」との間にも、「切断」されたもの同士の「自己否定」的な「相互媒介」という関係性を見出してゆくのである。

主要著書

A. 一次文献

  • 『ツアラトーストラ羞恥・同情・運命』岩波書店、1936年
  • 『原初論理学』中西屋、1937年
  • 『西哲叢書Ⅺ ヒューム』弘文堂、1937年
  • 『触覚的世界像の成立』河出書房、1939年
  • 『生成の形而上学序論』筑摩書房、1941年
  • 『抒情詩の厭世』創元社百科叢書、1947年
  • 『ゲーテ箴言抄』秋田屋書店、1947年
  • 『ゲーテとニーチェを結ぶもの』創元社、1948年
  • 『斎藤茂吉とヨーロッパ的世界』永言社、1948年
  • 『生の祈願と否定の精神』八雲書店、1948年
  • 『ニーチェの精神伝統』新月社、1949年
  • 『哲学から文学へ』新月社、1949年
  • 『ゲーテのヒューマニズム』評論社、1949年
  • 『愛情の道化と救済の智慧 「ファウスト」をめぐって』糸書房、1949年
  • 『時間と永遠』筑摩書房、1974年

B. 土井による翻訳その他

  • エミール・ラスク『判断論』久保虎賀壽訳、岩波書店、1929年
  • エミール・ラスク『哲学の論理学』土井虎賀壽訳、岩波書店、1930年
  • ルー・アンドレアス・サロメ『リルケ』土井虎賀壽訳、筑摩書房、1943年
  • ショーペンハウエル『意志と表象としての世界』三笠書房、1949年
  • フリードリヒ・ニーチェ『この人を見よ』土井虎賀壽訳、三笠書房、1950年
  • フリードリヒ・ニーチェ『悲劇の誕生』土井虎賀壽訳、三笠書房、1950年
  • フリードリヒ・ニーチェ『力への意志』上、土井虎賀壽訳、三笠書房、1951年
  • フリードリヒ・ニーチェ『力への意志』下、土井虎賀壽訳、三笠書房、1951年
  • Das Kegon Sutra. im Auftrag des Tempels Tōdaiji aus dem chinesischen Text übersetzt von Torakazu Doi. Tokyo : Doitsubun-Kegonkyō-Kankōkai , 1981-1983.
  • Das Kegon Sutra : das Buch vom Eintreten in den Kosmos der Wahrheit. im Auftrag des Tempels Tōdaiji aus dem chinesischen Text übersetzt und mit einer Einführung versehen von Torakazu Doi. Tokyo : Doitsubun-Kegonkyō-Kankōkai , 1978.
  • Das Kegon-Sûtra. 2 Bände. Aus dem Chinesischen von Torakazu Doi. Frankfurt: Angkor Verlag, 2008.

読書案内

管見の限り、土井の著作は全て絶版となっており、古書としてのみ入手可能である。宗教・文学・文化に関わる土井の縦横無尽な哲学的思索に触れるには、『時間と永遠』(1974)が最適であろう。編者の粟津則雄(旧制三高で土井に師事)によれば、本書には、「大乗仏教の論理と、ギリシャ哲学からゲーテ、ニーチェを経て、ハイデガーに通じる西欧存在論との結合統一」という、土井の「基本主題を、もっとも明確なかたち」で示す、戦後から晩年までに書かれた諸論考が収録されている。特に、土井自身が「私の思索の基本線」と語る、「時間と永遠、人間と神の関係」を主題的に論じた「時間の問題」、「時間の主体性と永遠の今」から読み始めることを薦める。この二つの時間論を通じて、「現実」と「事実」の区別や、「切断」された事物同士の「相互媒介」と「転換」といった、土井の思索における基本的な枠組みについて、一通りの理解が得られよう。そうなれば後は、それぞれの関心に応じて読み進めることができる。即ち、華厳経翻訳者としての土井虎賀壽に関心があれば、「華厳の事々無礙と三界唯心」および「時間と事々無礙の哲学」を、また、東西思想の結合統一という主題に関心があれば、「大智と大悲――信仰の弁証法――」や「実存主義と仏法の無神論」を、といった具合に読み進めればよい。ただ、宗教、文学、哲学を横断する思索の集大成にして未完の大著が含む「非人称的世界と象徴世界」に取り組むには、前掲のの諸論考に加え、土井のゲーテ論やニーチェ論が必須の文献である。

二次文献について

土井の思想研究は未踏であると言わざるを得ない。その原因の一端は土井の論述にある。注もほとんど付されず、また議論がしばしば未完、あるいは断片的である土井の論述を理解するのは容易ではないが、一方「弁証法」や「永遠の今」という京都学派の哲学者たちが共有した諸概念を独自の仕方で展開した土井の思索には、興味深い観点があることも事実である。執筆者の知る限りでは、仏教学者、久保紀生の仏教と哲学の抱合――土井虎賀寿の場合」(『大正大学綜合仏教研究書年報』第19号、1997年)ならびに「実存哲学から華厳思想へ――土井虎賀壽研究」(『大正大学綜合仏教研究書叢書第十七巻 仏教の人間観』2007年)が、貴重な先行研究として挙げられる。また、樽見博が作成した「土井虎賀壽著書目録」(『日本古書通信』第83号、2008年)そして樽見によるその補足コメント(https://company.books-yagi.co.jp/archives/4476)は、土井の文献学的研究を進める上で、重視されてよい。なお、土井の人柄や交友関係については、竹田篤司『物語京都学派』(中公叢書、2001年 / 中公文庫、2012年)に多少の記述がある。さらに、土井の教え子、青山光二の小説『われらが 風狂の師』(新潮文庫、1987年)に登場する土岐数馬のモデルが土井であることは、周知の事実である。しかし、その生涯や人柄は克明に描き出されているものの、青山が言う通り、これは伝記ではない。

(藤貫裕 記、2020年3月公開)

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思想家紹介 井筒俊彦 https://www.bun.kyoto-u.ac.jp/japanese_philosophy/jp-izutsu_guidance/ Thu, 27 Jan 2022 04:39:34 +0000 https://www.bun.kyoto-u.ac.jp/?p=60032 井筒俊彦 1914-1993(大正3-平成5)

略 歴

言語学者、哲学者、イスラーム学者。東京生まれ。幼少のころより在家の禅修行者であった父に独自の内観法を教授され、禅書にも親しんでいた。慶應義塾大学文学部英文科を卒業。卓越した語学力により、当初はギリシャ神秘思想、イスラム思想、コーランの言語哲学的研究に専念。1957年から1958年、日本語ではじめての『コーラン』の原典からの翻訳が岩波文庫から刊行された。ただ、井筒自身は、この翻訳には満足せず、「一番大切な問題である文体を、口語の枠内で徹底的に」改めるなどし、「思想を新たにして全部訳しなおした」『改訳 コーラン』を1961年から1964年にかけて発表(「『コーラン』改訳の序」)。厳密な言語学的研究を基礎とする訳は、現在にいたるまで高く評価されている。また、『コーラン』についての意味論的研究書、『意味の構造』(原著は英語による)の評価も高い。
 井筒は、さらにペルシャ・イスラム哲学の研究へと進み、その成果が日本のイスラム研究の水準を飛躍的に引き上げた。その後、仏教思想・老荘思想・朱子学などを視野に収めた独自の東洋哲学の構築を試みた。慶應義塾大学、カナダ・マッギル大学、イラン王立哲学研究所の教授を歴任。1967年以降は、エラノス学会で主に東アジア思想に関する講演を続けた。井筒独自の哲学的意味論に基づく多数の英語による論文や著作は、日本のみならず海外においても高く評価されている。日本国内では、井筒生誕百周年を迎えた2013年前後から、母校慶應義塾大学の『三田文学』で二度の井筒特集(2009年・2014年)が刊行されたほか、様々な雑誌や学会で井筒の思想が取り上げられた。
 生涯の研究の集大成として、『井筒俊彦全集』(2013-2016年)および『井筒俊彦英文著作翻訳コレクション』(2016-2019年)が、慶應義塾大学出版会より刊行された。

思 想

井筒は、さまざまな言語で執筆されたの思想の文献を読み解き、そこに表現された世界観を析出することを、自らの著述の基本的な手法とした。思考と言語を切り口とし、人類には共通普遍なものがあることを確信、その体系化を試みたと言える。晩年には、東アジア、インド、イスラーム、ユダヤの神秘思想をそれぞれの歴史的差異を超えた次元で類型論的に把握し、〈東洋哲学〉として構造化することを目指した。井筒は、仏教の唯識論における阿頼耶識(あらやしき)——我々が意識することのない最深層に定位する識——を、言語意味論に応用して「言語アラヤ識」と名づけた。多種多様な言語の数だけ思想、意味、世界観・価値観があるとも考えられるが、人類に共通普遍な意味可能体 の貯蔵所あるいは「種子」として、言語アラヤ識があり、様々な形やイメージは、そこから言語や風土・民族性を媒介して結晶する意味構造体であると捉えた(「井筒俊彦 ~語学の天才 知られざる碩学~」)。

主要著書

A. 著作集

  • 『井筒俊彦著作集』全11巻・別巻1冊、中央公論社、1991年-1993年
  • 『井筒俊彦全集』全12巻・別巻、慶應義塾大学出版会、2013年―2016年
  • 『井筒俊彦英文著作翻訳コレクション』全7巻(全8冊)、慶應義塾大学出版会、2016年―2019年

B. 文庫あるいは新書

  • 『マホメット』アテネ文庫、弘文堂、1952年 / 講談社学術文庫、1989年
  • 『イスラーム哲学の原像』岩波新書、1980年
  • 『コーラン 改版』上・中・下巻、岩波文庫、1985年
  • 『ロシア的人間』中公文庫、1989年
  • 『イスラーム生誕』中公文庫、1990年
  • 『イスラーム思想史』中公文庫、1991年 / 『イスラーム思想史 改版』中公文庫、2005年
  • 『イスラーム文化――その根底にあるもの』岩波文庫、1991年
  • 『意識と本質――精神的東洋を索めて』岩波文庫、1991年
  • 『東洋哲学覚書 意識の形而上学-『大乗起信論』の哲学』中公文庫、2001年
  • 『『コーラン』を読む』岩波現代文庫、2013年
  • 『意味の深みへ』岩波文庫、2019年
  • 『コスモスとアンチコスモス』岩波文庫、2019年
  • 『神秘哲学』岩波文庫、2019年

C. 単行本

  • 『アラビア思想史――回教神学と回教哲学』大久保幸次監修、博文館、1941年
  • 『東印度に於ける回教法制(概説)』東亜研究所、1942年
  • 『神秘哲学(ギリシアの部)』光の書房、1949年
  • 『露西亜文学』(一)(二)慶應通信、1951年
  • 『ロシア的人間――近代ロシア文学史』弘文堂、1953年
  • 『意味の構造――コーランにおける宗教道徳概念の分析』牧野信也訳、新泉社、1972年
  • 『イスラーム思想史』岩波書店、1975年
  • 『ロシア的人間』北洋社、1978年
  • 『神秘哲学』全二巻、人文書院、1978年
  • 『イスラーム生誕』人文書院、1979年
  • 『イスラーム文化――その根柢にあるもの』岩波書店、1981年
  • 『意識と本質――精神的東洋を索めて』岩波書店、1983年
  • 『岩波セミナーブックス1 コーランを読む』岩波書店、1983年
  • 『意味の深みへ――東洋哲学の水位』岩波書店、1985年
  • 『叡知の台座――井筒俊彦対談集』岩波書店、1986年
  • 『コスモスとアンチコスモス――東洋哲学のために』岩波書店、1989年
  • 『超越のことば――イスラーム・ユダヤ哲学における神と人』岩波書店、1991年
  • 『意味の構造――コーランにおける宗教道徳概念の分析』牧野信也訳、新泉社、1992年
  • 『東洋哲学覚書 意識の形而上学――『大乗起信論』の哲学』中央公論社、1993年
  • 『老子』慶応義塾大学出版会、2001年
  • 『読むと書く――井筒俊彦エッセイ集』若松英輔編、慶應義塾大学出版会、2009年
  • 『神秘哲学 ギリシアの部』慶應義塾大学出版会、2010年
  • 『アラビア哲学――回教哲学』慶應義塾大学出版会、2011年
  • 『露西亜文学』慶應義塾大学出版会、2011年
  • 『禅仏教の哲学に向けて』野平宗弘訳、ぷねうま舎、2014年
  • 『井筒俊彦ざんまい』若松英輔編、慶應義塾大学出版会、2019年

D. 主要英文著作(※各著作について、最新版の出典のみ記載)

  • Toward a Philosophy of Zen Buddhism. Boulder: Prajñā Press, 1982.
  • Sufism and Taoism : A Comparative Study of the Key Philosophical Concepts in Sufism and Taoism. Berkeley: University of California Press, 1984.
  • Creation and the Timeless Order of Things: Essays in Islamic Mystical Philosophy. Edited by William C. Chittick. Ashland: White Cloud Press, 1997.
  • Lao-tzu: The way and Its Virtue. Vol.1 of The Izutsu Library Series on Oriental Philosophy. Tokyo: Keio University Press, 2001.
  • Ethico-Religious Concepts in Qur’ān. Montreal: McGill-Queen’s University Press, 2002.
  • The Structure of Oriental Philosophy: Collected Papers of the Eranos Conference vol.Ⅰ. Vol.4 of The Izutsu Library Series on Oriental Philosophy. Tokyo: Keio University Press, 2008.
  • The Structure of Oriental Philosophy: Collected Papers of the Eranos Conference vol.Ⅱ. Vol.4 of The Izutsu Library Series on Oriental Philosophy. Tokyo: Keio University Press, 2008.
  • Kukai on the Philosophy of Language, Vol.5 of The Izutsu Library Series on Oriental Philosophy. Translated by Shingen Takagi and Thomas Eijō Dreitlein. Tokyo: Keio University Press, 2005.
  • Language and magic: Studies in the Magical Function of Speech. Vol.1 of The Collected Works of Toshihiko Izutsu. Tokyo: Keio University Press, 2011.
  • God and Man in the Koran: Semantics of the Koranic Weltanschauung. Tokyo: Keio University Press, 2015.
  • The Concept of Belief in Islamic Theology: A Semantic Analysis of Iman and Islam. Tokyo: Keio University Press, 2016.

主な二次文献

A. 単行本

  • 安藤礼二・若松英輔編『増補新版 井筒俊彦:言語の根源と哲学の発生』河出書房新社、2017年
  • 井筒豊子『井筒俊彦の学問遍路:同行二人半』慶應義塾大学出版会、2017年
  • 斎藤慶典『「東洋」哲学の根本問題:あるいは井筒俊彦』講談社選書メチエ、2018年
  • 坂本勉・松原修一編『井筒俊彦とイスラーム:回想と書評』慶應義塾大学出版会、2012年
  • 澤井義次・鎌田繁編『井筒俊彦の東洋哲学』慶應義塾大学出版会、2018年
  • バフマン・ザキプール『井筒俊彦の比較哲学:禅的なものと社会的なものの争い』知泉書館、2019年
  • 若松英輔『井筒俊彦:叡智の哲学』慶應義塾大学出版会、2011年
  • 若松英輔『叡智の詩学 小林英雄と井筒俊彦』慶應義塾大学出版会、2015年

B. ホームページ(井筒俊彦に関する情報がまとめられたもの)

  • 慶應義塾大学出版会 特集サイト「井筒俊彦」
  • 慶應義塾大学『井筒俊彦全集』特設サイト
  • 『井筒俊彦英文著作翻訳コレクション』特設サイト
  • 慶應義塾大学出版会が提供するこれらのサイトから、井筒の著述、思想、人物に関する有益な情報を得ることができる。
    全集ならびに翻訳コレクションの特設サイトでは、各巻の目次や簡単な内容紹介も提供されている。
    また、若松英輔氏による、テーマ別「井筒俊彦」入門は、質、量ともに充実している。

  • 井筒俊彦データベース
  • 上記ホームページには、天理大学の澤井義次教授を研究代表者とする研究プロジェクト「井筒・東洋哲学の構築とその思想構造に関する比較宗教学的検討」(課題番号JP26284013 科学研究費助成事業・基盤研究(B)の成果が掲載されている。
    同プロジェクトの共同研究の一環として長岡徹郎氏(京都大学非常勤講師)により作成された「井筒俊彦データベース」(井筒俊彦に関する日本語および欧文の研究文献が、編年体順、執筆者名順、ジャンル別順に収録されている)のダウンロード、閲覧が可能である。

    (熊谷征一郎 記、2006年11月)
    (藤貫裕 追記、2020年3月)

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    ]]> 思想家紹介 廣松渉 https://www.bun.kyoto-u.ac.jp/japanese_philosophy/jp-hiromatsu_guidance/ Fri, 10 Dec 2021 05:34:49 +0000 https://www.bun.kyoto-u.ac.jp/?p=59613 廣松渉 1933-1994(昭和8-平成6)

    略 歴

    1933年山口県厚狭郡に生まれ、福岡県柳川市蒲池で育つ。高校進学と共に日本共産党に入党、大検を受け東京学芸大学に入学後、中退して東京大学で哲学を学ぶ。共産主義者同盟(ブント)を支持し、雑誌『情況』の出版に尽力するなど、哲学の理論的研究にとどまらず幅広く活躍した。

    思 想

    廣松の思想はマルクス主義の立場に立脚し近代の構図から離れ新たな思想を組み立てようとするところに特徴がある。その思想を以下の三つのキーワードから解説する。

    ①マルクス主義の疎外論から物象化論への展開
     廣松は、マルクス主義の疎外論が「主体―客体」図式を前提にしているとして物象化論を唱えた。疎外論においては一人の主体が労働することによって、その労働に応じて生産物に「価値」が与えられ、主体はそのことによって生産物から疎外されるとされるが、「価値」はそのようなものではないと廣松は考える。物象化論の立場に立つ廣松は、「価値」の決定基準は「総労働に対する生産者たちの社会的関係」にあると考えており、一人の労働行為ではなく、関係の網目に組み込まれた人間達の「総労働」から逆説的に個々の労働の「価値」が決定されると考えた。つまり一人の主体が労働した分の価値が生産物に付与されるということはなく、むしろ総労働から個々の労働の価値が割り当てられてから、逆説的にある主体がその生産物に価値を付与したように見えるだけなのだ。マルクスはそうした事態を「取り違え(Quid pro quo)」と呼んでおり、これを商品の「物神的性格」だとした。廣松の物象化論において重要なのは「主体―客体」は近代の作り上げた虚構であり、「関係の一次性」が本質的なものであると主張している点である。

    ②世界の共同主観的存在構造
     廣松はこうした物象化論を発展させて、世界の共同主観的存在構造という独自の立場に立った。まず近代の「主体―客体」図式では「意識作用―意識内容―客体自体」という三項図式が成立してしまうと廣松は考える。しかしそうした三項図式はゲシュタルト心理学などから科学的に批判されており、もはや妥当性がないと考える。そこで廣松は現象(フェノメノン)の対象的二要因と主体的二重性について述べ、私達が認識する現象的(フェノメナルな)世界は本来、その二要因と二重性が重なり合った四肢的構造連関という在り方をしていると主張する。
     まずフェノメナルな対象について廣松は、「即自的に、その都度すでに、単なる感性的所与以上の或るものとして現れる」と述べる。例えば私達が鉛筆を見るときそれは鉛筆「として」認識される。対象は常に「~として」という構造で認知される。この「~として」という構造は、イデアールなetwas(この場合鉛筆)がレアールな所与において肉化(inkarniren)しているということである。廣松はレアールとイデアールを交わらない対立としては見ずに、むしろ対象においてレアール・イデアールが二肢的に構造統一して現れているのだと考える。
     そしてその対象を認識する主体について、フェノメノンは「誰かに対して」あるのだと廣松は考える。フェノメノンは私に対してだけでなく、彼に対して、あるいは子供に対して、外国人に対して、一般に任意の他者に対してもあることができ、その主体によって現われ方が異なる。例えば時計の音を聴くとき、日本語話者は「カチカチ」と聴くかもしれないが英語話者は「チックタック」と聴くかもしれない。つまり所与etwasを意識する在り方はその共同体によって共同主観化されているのである。だから対象が「に対して」拓けるのは単なる私として以上の私、いわば「我々としての私」であると廣松は考え、フェノメナルな世界が「に対して」拓ける主体は「誰かとしての誰」という二肢的二重性を持っているとする。
     以上のそれぞれの二肢的性質を合わせ、廣松は四肢的構造連関とは「所与がそれ以上の或るものとして「誰」かとしての或る者に対してある(Gegebenes als etwas Mehr gilt einem als jemandem)」という世界の存在様式を世界の共同主観的存在構造として述べた。

    ③近代の超克論
     廣松は戦時中の思想の総括として近代の超克論について述べている。とりわけ廣松は京都学派の近代の超克論をマルクス主義の立場から、「人間疎外」を問題にしこの「疎外」的歴史状況の超克を論じたものだったと評している。京都学派の哲学的人間学は、人間を単なる「理性的存在者」としてみる啓蒙主義的人間観に対して、人間存在を「生の現実」に即し「情意的な面」まで含めて相対的に捉えよう努力したものであった。しかしそもそも哲学的人間が所謂人間主義の埒に根差すものであり、それは俗にいう「人間中心主義の時代」たる近代の地平に照応するところの、典型的な近代哲学、典型的な近代イデオロギーの一形態であると言わざるを得ない、として京都学派の近代の超克論が近代の枠組みから依然として脱出できていないことを指摘し批判した。

    廣松渉の思想は多岐にわたるが、以上の三点が廣松の主要概念である。

    主要著書

    A. 全集等

    • 廣松渉著作集 全16巻 岩波書店、1996-1997
    • 廣松渉コレクション 全6巻 情況出版、1995

    B. 主な単行本・入手が容易な文庫本等

    • 『マルクス主義の地平』講談社、1991
    • 『物象化論の構図』岩波書店、2001
    • 『今こそマルクスを読み返す』講談社、1990
    • 『存在と意味 事的世界観の定礎 第1巻』岩波書店、1982
    • 『世界の共同主観的存在構造』岩波書店、2017
    • 『もの・こと・ことば』筑摩書房、2007
    • 『近代の超克論 昭和思想史への一断想』講談社、1989

    主な二次文献

    • 熊野純彦『戦後思想の一断面―哲学者廣松渉の軌跡』ナカニシヤ出版、2004
    • 小林敏明『廣松渉―—近代の超克』講談社、2015
    • 渡辺恭彦『廣松渉の思想 内在のダイナミズム』みすず書房 、2018
    • 米村健司『廣松渉―「もの」から「こと」の地平へ』世界書院、2019
    (吉村雄太 記、2021年12月公開)

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    2021年度の授業 https://www.bun.kyoto-u.ac.jp/japanese_philosophy/2021%e5%b9%b4%e5%ba%a6%e3%81%ae%e6%8e%88%e6%a5%ad/ Thu, 28 Oct 2021 03:45:48 +0000 https://www.bun.kyoto-u.ac.jp/?p=58963 日本哲学史研究室ホーム

    講  義

    教官 上原 麻有子 種別 講義 学部(2回生以上)
    曜日・時限 前期 火・5 教室 総合研究2号館 第8講義室
    題目 日本哲学史講義1
    概要・目的 日本哲学史を①西田幾多郎、②近代日本哲学の発展から京都学派の哲学への二部に分けて日本哲学の形成過程を概観し、さらに、これまで論じられてきた主要問題を通して日本哲学のあり方、意義について検討する。このようにして日本哲学史についての理解を深めることが、授業の目的である。
    内容 以下のような課題に基づき、各課題につきおよそ次の回数で授業を進める予定である。
    ①ガイダンス:「日本哲学」の現状【1回】
    ②西田幾多郎【4回】
    ③明治期から西田幾多郎までの日本哲学史概要【2回】
    ④西周、井上哲次郎、清沢満之【3回】
    ④京都学派:田辺元、三木清、戸坂潤【4回】
    ⑥フィードバック【1回】
    テキスト・参考文献 授業中に紹介する
    教官 上原 麻有子 種別 講義 学部(2回生以上)
    曜日・時限 後期 火・5 教室 総合研究2号館 第8講義室
    題目 日本哲学史講義2
    概要・目的 京都学派とその周辺の哲学者の思想を、いくつかのテーマを追う形で考察することが、この授業の目的である。さらに、講義で考察する日本哲学の問題が、私たち各自の経験においてどのような意義をもつのか、その経験とどのように結びつき得るのかについても検討する。
    内容 以下のような課題(日本哲学史上の主要問題)を講義では扱うが、1課題に充てる講義の回数は2~3回である。
    ①翻訳と言語:翻訳から見る哲学、和辻哲郎の「日本語と哲学の問題」
    ②偶然と実存:九鬼周造
    ③論理:田辺元
    ④倫理学:和辻哲郎
    ⑤フィードバック
    テキスト・参考文献 授業中に紹介する

    特殊講義

    教官 上原 麻有子 種別 特殊講義 学部(3回生以上)・大学院
    曜日・時限 後期 水・5 教室 文学部新館 第5講義室
    題目 田辺元最晩年の哲学 ― 芸術哲学か科学哲学か
    概要・目的 本講義は2020年度・後期の講義の続編である。田辺元が最晩年に初めて研究テーマとした芸術哲学と、初期より深められてきた科学哲学を取り上げ、比較研究を行うことを目指す。科学哲学から出発した田辺の研究には、「感情」について詳細に論じた形跡はない。しかしあえて、近代哲学的な意味での「芸術」という領域に固有な「感情」を、田辺において問うことにする。田辺が重要な課題として芸術と理性の内的葛藤という問題を検討した芸術論において、感情はどのように関連してくるのかという仕方で問いを呈示してみたい。というのも『ヴァレリイの芸術哲学』(1951年) および『マラルメ覚書』(1961年)で論じられた、「象徴」と「言語」、「論理」の連関を検討することにより、「感情」の問題を探ることは可能であると考えられるからである。講義では、主にこの二著を題材とし、田辺の芸術哲学における感情と哲学の問題を探るとともに、この最晩年期の哲学の特徴を明らかにする。
    内容 以下のような課題を通して考察を深めてゆく。各課題に充てる予定の回数を、【 】内に示しておく。
    ① ガイダンス―趣旨説明と授業計画。【1回】
    ② 数学的問題と「象徴」の連関。【4回】
    ④ 芸術哲学の発展:『マラルメ覚書』をてがかりとし、田辺のハイデガー哲学との対決について検討する。【3回】
    ⑤ 感情と象徴の問題:芸術と宗教の関係から検討する。【1回】
    ⑥ 感情と哲学、芸術と理性の内的葛藤、西田の芸術哲学との比較【4回】
    ⑦フィードバック【1回】
    テキスト・参考文献 授業中に紹介する
    教官 大河内 泰樹 種別 特殊講義 学部(3回生以上)・大学院
    曜日・時限 前期 木・2 教室 文学部新館 第2講義室
    題目 ヘーゲルの『精神現象学』における個人と社会
    概要・目的 この授業では、講義担当者の翻訳にもとづいて、ヘーゲルの『精神の現象学』(1807)について講義する。扱うのは「理性章」BおよびCである。理性章では、自己意識章を通じて獲得された「一切の実在性である」という意識の確信から、意識章からの対象認識と自己意識の実践とがより高次の立場で捉え返されている。B、C節では特に社会共同体への個人の実践的関与のあり方について記述しており、社会哲学的にも、また行為論的にも興味深い議論が展開されている。そのテキストの検討を通じて、個人と社会、および近代社会についてのヘーゲルの見解を検討していく。
    内容 第1回 ガイダンス
    第2回 B.理性的自己意識の自分自身による実現
    第3回 a. 快と必然性
    第4回 b. 心の法則と自負の狂気
    第5回 c.徳と世間
    第6回 C. 自らにとって即かつ対自的に実在的な個体性
    第7回 個体性
    第8回 事そのもの
    第9回 欺瞞
    第10回 立法する理性
    第11回 法を検証する理性
    第12回 理性の到達点
    第13回 行為論と道徳論
    第14回 理性と精神
    第15回 まとめ
    テキスト・参考文献 『精神現象学』の翻訳については大河内の訳を配布するが、以下の翻訳も手元に置いておくとよいだろう。
    樫山欽四郎訳『精神現象学上/下』平凡社ライブラリー、1997年
    熊野純彦訳『精神現象学上/下』ちくま学芸文庫、2018年
    以下の翻訳は詳細な解説も含んでおり参考になる。
    金子武蔵訳『ヘーゲル全集5 精神の現象学 上/下』岩波書店、1979年また、『精神現象学』の概要について知りたい人には以下をお勧めする。
    加藤尚武編『ヘーゲル「精神現象学」入門』講談社学術文庫、2012年
    教官 上原 麻有子 種別 特殊講義 学部(3回生以上)・大学院
    曜日・時限
    後期 水・5
    教室 第2演習室
    題目 自覚の哲学-西田最晩年の思索を中心に
    概要・目的 本講義の目的は、西田哲学の一つの根本を支えるものを「自覚」ととらえ、最初期から最晩年までにどのような発展があり、西田の思索全体をいかなる仕方で支えたのかを探ることにある。この概念の創出と成熟の背景にあったのは、カント、フィヒテ、ベルクソン、新カント学派、デカルトなど多くの西洋の哲学者の思想であるが、これらを探りつつ西田の「自覚」の性格を特徴づける。
    内容 以下のような課題を通して考察を深めてゆく。各課題に充てる予定の回数を、【 】内に示しておく。
    ① ガイダンス―趣旨説明と授業計画。【1回】
    ② 西洋近代の「自覚」概観:【3回】
    ③ 西田の「自覚」創出期【1回】
    ④ 西田の「自覚」の展開【4回】
    ⑤ 西田の「自覚」の成熟【4回】
    ⑥ 宗教哲学へ【1回】
    ⑦ フィードバック【1回】
    テキスト・参考文献 授業中に紹介する
    教官 杉村 靖彦 種別 特殊講義 学部(3回生以上)・大学院
    曜日・時限
    前期 水・4
    教室 第6講義室
    題目 西谷宗教哲学の研究
    概要・目的 西谷啓治(1900-1990)は、西田、田辺の後の京都学派の第三世代を代表する哲学者であり、大乗仏教の伝統を換骨奪胎した「空の立場」から「ニヒリズム以後」の現代の思索の可能性を追究したその仕事は、没後30年を経て国内外で多方面からの関心を引きつつある。しかし、その全体を組織的に考察した本格的な研究は、まだほとんどないと言ってよい。
    本講義は、この西谷宗教哲学の全体を通時的かつ網羅的に研究し、今後の土台となりうるような組織的な理解を形成しようとするものである。それによって、今日の宗教哲学がそこから何を受けつぐことができるかを、批判的に考究していくための拠点を手に入れることを目指す。
    なおこの研究は、来年度以降も後期の特殊講義をあて、数年かけて進めていく予定である。今年度は、1940年頃までの初期の諸論考を主に扱うことになる。
    内容 以下の諸テーマについて、一つのテーマ当たり2,3回の授業をあてて講義する。
    (「特殊講義」という、教員の研究の進展をダイレクトに反映させることを旨とする授業であるので、1回ごとの授業内容を細かく記すことはしない。また、以下の諸テーマにしても、細部については変更の可能性がある。)1.ポスト西谷的宗教哲学へ―西谷宗教哲学の受け取り直しのために
    2.「空の立場」と「禅の立場」―西谷宗教哲学への俯瞰的導入
    3.卒業論文「シェリングの絶対的観念論とベルクソンの純粋持続」―西谷宗教哲学の端緒
    4.「悪の問題」への着手―西谷宗教哲学の導きの糸
    5.哲学的神秘主義と根源的主体性―前期西谷宗教哲学の二つの焦点なお、最後の授業は、本学期の講義内容全体をめぐる質疑応答と議論の場とし、講義内容の受講者へのフィードバックを図る。
    テキスト・参考文献 授業中に紹介する
    教官 James W. Heisig 種別 特殊講義 学部(3回生以上)・大学院
    曜日・時限 後期 火・3,火・4(隔週開講) 教室  第7演習室
    題目 Ethics and the Kyoto Philosophical Tradition
    概要・目的 Ethics has to do with the ethical subject, but its subject matter extends beyond the subject to include human society and the natural world. Moreover, although ethics does not stop at reflection on ethics but must open out into ethical action, reflection “–“; whether on the ethical subject or on the needs of the wider world “–“; is also part of ethical action.
    These questions will be look at critically in the thinking of four thinkers from the same Kyoto philosophical tradition: Nishida Kitaro, Tanabe Hajime, Nishitani Keiji, and Ueda Shizuteru. The aim will be not only to look at the insights and oversights of each of these thinkers with regard to ethics, but also consider how their tradition may be given new life by addressing the questions they left open.
    内容 The following topics will be taken up in order. The number in brackets refers to the number of lectures devoted to each.
    ① Fundamental questions of ethics and ethical theory [1]
    ② Nishida’s view of ethics [3]
    ③ Tanabe’s view of ethics [3]
    ④ Nishitani’s view of ethics [3]
    ⑤ Ueda’s view of ethics [3]
    ⑥ Ethics in the Kyoto philosophical tradition for today[2]
    テキスト・参考文献 授業中に紹介する
    教官 安部 浩 種別 特殊講義 学部(3回生以上)・大学院
    曜日・時限 後期 金・3 教室 未定
    題目 『善の研究』読解
    概要・目的 本講義は「『善の研究』講解」と題し、西田幾多郎の主著『善の研究』を手がかりにして自己存在の解明を試みる。
    内容 本講義は『善の研究』の諸議論の要点や難読箇所の意味に関して解説するものであるが、同書の関連箇所を参加者各人が予め精読の上、講師の解説を巡って討議しあう講読の時間もそのつど交えて進めていくつもりである。目下のところ、以下のような課題について、1課題あたり2~3週の授業をする予定である。
     1. 真実在の根本的方式
     2. 唯一実在
     3. 実在の分化発展
     4. 自然
     5. 精神
     6. 実在としての神
    テキスト・参考文献 Kitaro Nishida『An Inquiry into the Good』(Yale University Press) ISBN:0300052332, 9780300052336 (Abe Masao, Christopher Ives (transl.) )
    Kitaro Nishida『Ueber das Gute』(Insel) ISBN:3458344586, 978-3458344582 (Peter Poertner (Ueb.))
    教官 廖 欽彬 種別 特殊講義 学部(3回生以上)・大学院
    曜日・時限 前期 木・3 教室 オンライン
    題目 近代日本哲学における田辺哲学
    概要・目的 本講義の目的は比較哲学の視点を通じて、田辺元の哲学とその現代的意義を考察することにある。講義では、宗教哲学、歴史哲学、存在論と現象学、比較哲学という視点から、田辺哲学とほかの哲学者の哲学とを対話させることによって、田辺哲学の普遍性と特殊性を明らかにし、さらに田辺哲学のポテンシャルを掘り出すことを目的とする。
    内容 以下の4つのテーマで、田辺哲学とほかの哲学者の哲学とを比較し、田辺哲学の特色を示す。各課題に充てる予定の回数を、【 】内に示しておく。

    1.ガイダンス【1回】
    2. 宗教哲学としての田辺哲学【3回】
    3. 歴史哲学としての田辺哲学【4回】
    4.「種の論理」と現象学【3回】
    5. 異文化間の田辺哲学【3回】
    6.フィードバック【1回】

    テキスト・参考文献 授業中に紹介する
    教官 竹花 洋佑 種別 特殊講義 学部(3回生以上)・大学院
    曜日・時限 前期 集中 教室 オンライン
    題目 歴史主義としての田辺哲学-「京都学派」の哲学における歴史の問題-
    概要・目的 1930年代の「京都学派」の哲学における中心的概念の一つに歴史があることはよく知られている。世界のリアティティーは歴史的なものとして開示されるべきだという基本了解は、当時の多くの哲学者に共有されていたものであると言ってよい。こうした「歴史の過剰さ」の哲学的および思想史的意味を、徹底的に歴史に根差すことをおそらく自らに最も課した田辺元の哲学の展開を追跡することを通して、考察することが本講義の課題である。30年代の「種の論理」はもちろんのこと、「懺悔道」以後の戦後の宗教哲学をも、田辺は歴史的であることを本質とする哲学として語ろうとする。その意味で、田辺自身は自らの立場を歴史主義と積極的に表明する。この立場の意味するものを、彼の戦前の思想については主に西田幾多郎との関係で、戦後の思想については主にハイデガーとの関わりにおいて、理解することを試みていく。
    内容 第1回 ガイダンス
    第2回 田辺のハイデガー受容と西田批判の意味
    第3回 田辺の身体論と人間学
    第4回 西田の「永遠の今」と田辺の西田受容
    第5回 田辺のヘーゲル理解
    第6回 田辺の「種の論理」(1)-「種の論理」の基本的構造-
    第7回 田辺の「種の論理」(2)-西田哲学との関係で-
    第8回 1930年代の「京都学派」における歴史の問題ー三木・高坂・高山・西谷との関係で-
    第9回 西洋思想における歴史主義の問題と田辺の歴史主義の立場
    第10回 『懺悔道としての立場』における歴史性の問題-田辺のハイデガーとの対決-
    第11回 田辺の「実存協同」の思想
    第12回 田辺の『哲学と詩と宗教』におけるハイデガー論
    第13回 『数理の歴史主義展開』における歴史主義の問題
    第14回 田辺の「死の哲学」と西田・ハイデガーの哲学
    第15回 まとめ
    テキスト・参考文献 授業中に紹介する

    演  習

    教官 上原 麻有子 種別 演習 学部(4回生以上
    曜日・時限 通年不定 教室  日本哲学史研究室
    題目 卒論演習
    概要・目的 授業の目的は次の通りとする。①日本哲学の分野における論文の書き方(表現、論証、資料の調査・活用など)を習得する。②研究報告を行い、口頭による発表・議論の仕方を習得する。③卒業論文を作成する。
    内容 授業は、履修者の卒業研究発表とそれに関する議論をもとに進められる。前期の初回はまず、学術論文の書き方について教師の側から指導する。以降、履修者は前期に研究経過報告を、また後期には最終的な報告を、それぞれ口頭で行う。後期の授業終了後の翌週の15回目は、フィードバックの回とする。
    テキスト・参考文献 授業中に紹介する
    その他 日本哲学史専修の4回生以上については、必修とする。
    教官 上原 麻有子 種別 演習
    曜日・時限 通年不定 教室  日本哲学史研究室
    題目 日本哲学の諸問題
    概要・目的 この授業では、日本哲学の主要概念やテーマの理解を深め、また諸問題を自ら新しく掘り起こすことを目的とする。そのために、テキストの読解、研究の口頭発表という二つの方法によって訓練を行う。
    内容 この授業は、以下の二部で構成される。
    前期…①日本哲学の文献の読解
    初回: ガイダンス。読解は担当制とする。読解用の文献を選ぶ。研究発表の担当を決める。
    2~14回: 担当者が注釈を付けるなどにより準備した読解を発表し、他の参加者と理解の確認や修正を行う。
    15回:フィードバック後期…②参加者の研究発表
    毎回:一名が口頭発表を行い、それに続いて発表者と参加者が議論する。
    15回:フィードバック
    テキスト・参考文献
    その他 日本哲学史専修の大学院生については、必修とする。

    基礎演習

    教官 PASCA, Roman 種別
    基礎演習 学部(2回生以上)
    曜日・時限 前期 火・2 教室 第9講義室
    題目 西田・田辺哲学を読む
    概要・目的 哲学とは何か。哲学は、宗教や思想とどのように異なるのか。日本哲学史はどのように理解すればよいか。京都学派の哲学はどのようなものか。西田幾多郎の哲学は本当に難解であるのか。田辺元の「懺悔としての哲学」とはどのような哲学か。
    以上のような問いを出発点とし、授業のの前半では日本哲学の独自な点や特徴を学び、後半では西田、および田辺のいくつかの著作の抜粋を読解する。
    テキストを精読するために、毎回の授業で担当者は抜粋の内容について報告し、この報告を基にクラスでディスカッションを行う。また、必要に応じて資料の外国語訳(主に英訳)も参照し、原著をより深く理解するよう努める。
    授業は演習形式であるため、受講者は積極的に参加するし発言することができる。
    内容 毎回、1~2名の担当者が指定されたテキストの抜粋箇所の内容を解説する形式で発表する。その後、発表に基づきクラスでディスカッションを行う。

    授業計画は以下の通りである。

    第1回 ガイダンス「哲学とは何か」
    第2回 宗教、思想、哲学
    第3回 日本哲学とは何か
    第4回 日本哲学史とは何か
    第5回 日本哲学の中の京都学派
    第6回 西田哲学読解(1)
    第7回 西田哲学読解(2)
    第8回 西田哲学読解(3)
    第9回 西田哲学読解(4)
    第10回 田辺哲学読解(1)
    第11回 田辺哲学読解(2)
    第12回 田辺哲学読解(3)
    第13回 田辺哲学読解(4)
    第14回 まとめと反省
    第15回 レポート検討会

    参考書等 授業中に紹介する
    教官 中嶋 優太 種別
    基礎演習 学部(2回生以上)
    曜日・時限 後期 月・3、月・4 教室 第6演習室
    題目 西田幾多郎の倫理学を読む
    概要・目的
    本基礎演習では「行為」「自由」「価値」「自己」「人格」「至誠」といった倫理学上の基礎概念に注目しつつ、『善の研究』『第3編善」の講読を行う。 本文を精読するために、受講者には担当箇所の内容についての簡単な発表を課し、この発表をふまえてディスカッションを行なっていく。
    『善の研究』「第3編」(および「第2編」)は西田幾多郎が1906年9月から金沢の第四高等学校で行った「倫理」の講義ノートがもとになっている。必要に応じて、その前後の第四高等学校での「倫理」「心理」、京都大学での「倫理学」の講義ノートなども参照し、『善の研究』の読解に必要な背景となる情報を共有する。
    対話しつつ解釈と思想を吟味すること、背景情報を調査することを通じてテキストをより深く理解することを目指す。
    内容 毎回、前半には、指定された講読箇所を受講者の数人に発表してもらい、それに基づいてディスカッションを行なっていく。
    後半には講師が次回の講読範囲を紹介すると共に、読解に必要な情報や資料について講義する。授業計画は以下の通りである。第1・2回 イントロダクション(『善の研究』というテクストの紹介、「第3編善」の倫理思想の概要(第3編第5~9章の解説)、および発表担当箇所の決定)
    第3・4回 第3編第1章「行為 上」
    第5・6回 第3編第3章「意志の自由」
    第7・8回 第3編第4章「価値的研究」
    第9・10回 第3編第9章「善(活動説)」
    第11・12回 第3編第10章「人格的善」
    第13・14回 第3編第9章「善行為の動機(善の形式)」第15回 まとめ
    参考書等 西田幾多郎(注解・解説 藤田正勝)『善の研究』(岩波文庫〔2012年改版〕) ISBN:978-4-00-331241-4 (2012年に改版されたものを用意するようにして下さい。)
    それ以外の資料については授業時にプリントアウトして配布する。
    その他

     

    前年度までの授業

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    第5回国際日本哲学会(IAJP)のお知らせ https://www.bun.kyoto-u.ac.jp/japanese_philosophy/%e7%ac%ac5%e5%9b%9e%e5%9b%bd%e9%9a%9b%e6%97%a5%e6%9c%ac%e5%93%b2%e5%ad%a6%e4%bc%9aiajp%e3%81%ae%e3%81%8a%e7%9f%a5%e3%82%89%e3%81%9b/ Fri, 26 Jun 2020 03:31:39 +0000 https://www.bun.kyoto-u.ac.jp/?p=40479 第5回国際日本哲学会(IAPJ)の案内です。

    論文を下記のテーマで募集致しますので、奮ってご応募下さい。

    詳細はチラシをご参照下さい。

     

    日時:2021年3月13日(土)・14日(日)

    場所:南禅寺

    テーマ:“95 Years after the Birth of Nishida Philosophy-‘Basho’ as Symbiosis of Non-Human and Human”

    要旨提出期限:2020年9月30日(水) (300 words)

    提出先:japanesephilosophy@gmail.com

     

    【募集チラシ】2021_IAJP KYOTO CFP 2020 24 06 b

     

    ]]>
    日本哲学史専修ホームページ https://www.bun.kyoto-u.ac.jp/japanese_philosophy/jp-top_page/ Wed, 11 Sep 2019 16:44:13 +0000 https://www.bun.kyoto-u.ac.jp/?p=37287 メニュー
     研究室について

     フォーラム、研究会等

     その他

    *    *    *    *    *

    日本哲学史専修 新ホームページも併せてご覧ください。

    お知らせ

    2022.05.30  第38回 西田・田辺記念講演会を開催致します

    ・日時  6月4日(土)午後2時

    ・場所  Zoom

    ・講演

    牧野 英二 氏  (法政大学 名誉教授)

    「田辺哲学と『歴史的理性批判』——田辺元没後60年を記念して」

    小林 敏明  氏 (ライプツィヒ大学 名誉教授)

    「西田研究の可能性——これから西田を研究する人のために」

    寸心会からのお知らせ
    西田没後、7人の弟子が立ち上げて以来の歴史をもつ寸心会では、例年、妙心寺霊雲院で法要を行ってきました。近年は、西田・田辺記念講演会の翌日曜日の午前中、墓前での読経と、西田の日記/書簡を読んでの感想会を兼ねて、霊雲院で会合を催してきました。今後とも続けてまいりたいと思いますが、今年度はコロナ禍により、昨年に続いて中止といたします。

    主催 西田・田辺記念講演会 (京都大学文学研究科 日本哲学史研究室・宗教学研究室)

    連絡先:日本哲学史研究室
    E-mail japanese_philosophy@yahoo.co.jp

    2021.06.05 第37回西田・田辺記念講演会が開催されます。(終了)

    2020.06.26 第5回国際日本哲学会(IAJP)の告知と募集について

    2019.11.22 第37回日本哲学史フォーラムが開催されます。

    日時:2019年12月21日(土)午後1時30分より

    場所:京都大学 総合研究2号館 地下第8講義室

    1.水野友晴 氏 (日独文化研究所事務局長)
    「「世界」における「自由」― 鈴木大拙と西田幾多郎に注目して」2.ブレット・デービス 氏  (米国ロヨラ・メリーランド大学哲学科 教授 )
    「世界哲学における日本哲学 ― 日本哲学の範囲と意義を再考する試み」」

    詳しくはこちら。

    2019.10.28 文学研究科日本哲学史研究室紀要『日本哲学史研究』の電子化・公開に係る著作権の処理について

    2019.10.10 京都大学国際シンポジウム「未来創成学の展望」(10月26日(土))が開催されます。

    2019.8.9 第一回日本哲学史研究室ミニシンポジウムを開催しました。

    2019.8.22-24  The 2nd Conference of the Asian Association for Women Philosophersを開催します(終了)

    2019.8.23 「女性がつくるアジア人文学」(人社未来形発信ユニット 第二回全学シンポジウム)が開催されます(終了)。

    2019.5.10 2019年度 西田・田辺記念講演会を開催します(終了)。

    2019.4.22 大学院進学説明会(思想文化学系)が開催されます(終了)。

    2019.4.9  第36回 日本哲学史フォーラムを開催します(終了)。

    2018.11.23  日本哲学ワークショップ「日本哲学研究のオルタナティブ」を開催します(終了)。

    2018.6.21  第35回日本哲学史フォーラムを開催します(終了)。

    2018.6.2   西田・田辺記念講演会を開催しました(終了)。

    2017.11.22  第34回日本哲学史フォーラムを開催します(終了)。

    2017.7.19  第33回日本哲学史フォーラム「京都学派の知の新解釈と継承―2」を開催します(終了)。

    2017.5.17   西田・田辺記念講演会を開催しました(終了)。

    2017.5.17    7月22日に日本哲学史のOD である杉本耕一氏の追悼シンポジウムを行います(終了)。 

    2017.4.21   新入生ガイダンスを行いました。(終了)

    2016.12.17  第32回日本哲学史フォーラム「京都学派の知の新解釈と継承―1」を開催します。(終了)

    2016.8.6 第31回日本哲学史フォーラム「翻訳と仏教」を開催します。(終了)

    2016.4.27   西田・田辺記念講演会を開催します。(終了)

    2016.4.8   新入生ガイダンスを行いました。

    2015.12.2 第30回日本哲学史フォーラム を開催します。(終了)

    2015.06.12 第29回日本哲学史フォーラム 「表現する自己、表現する世界」を開催します。(終了)

    2015.05.08 西田・田辺記念講演会を開催します。(終了)

    2015.04.10 新入生ガイダンスを行いました。

    2014.11.20 第28回日本哲学史フォーラムを下記の要領で開催しました。

    2014.07.28 第27回日本哲学史フォーラムを開催しました。

    2014.06.18 西田・田辺記念講演会を開催しました。

    2014.04.11  新入生ガイダンスを行いました。

    2013.12.10  雑誌『日本の哲学』第14号(昭和堂刊)を 刊行しました。

    2013.11.21 第26回日本哲学史フォーラムを開催しました。

    2013.11.01  紀要『日本哲学史研究』第10号が刊行されました。

    2013.07.26 第25回日本哲学史フォーラムを開催しました。

    2012.01.14.  1月5日(木)、6日(金)に台湾・中央研究院において台湾中央研究院、台湾大学人文社会高等研究院

    との共催で、「跨文化視野下的東亜哲学」国際学術検討会を開催しました。

    〒606-8501
    京都市左京区吉田本町
    京都大学文学部内

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    フォーラム、研究会等の一覧 https://www.bun.kyoto-u.ac.jp/japanese_philosophy/forum-etc/ Wed, 11 Sep 2019 15:41:00 +0000 https://www.bun.kyoto-u.ac.jp/?p=37335
  • 日本哲学史フォーラム
  • 西田・田辺記念講演会
  • 国際シンポジウム
  • 日本哲学ワークショップ
  • 日本哲学史研究室ミニシンポジウム
  • 日中共同研究
  • AAWP(Asian Association for Women Philosophers)
  • 西田幾多郎遺墨展
  • 京都大学文学研究科21世紀COEプログラム
    「グローバル化時代の多元的人文学の拠点形成」
  • 杉本耕一追悼シンポジウム
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杉本耕一追悼シンポジウム 「哲学」と「宗教」―杉本耕一の思索 https://www.bun.kyoto-u.ac.jp/japanese_philosophy/sugimoto-symposium/ Wed, 11 Sep 2019 15:23:20 +0000 https://www.bun.kyoto-u.ac.jp/?p=37317

日時:2017年7月22日(土)13:00-17:30

場所:京都大学文学部校舎(新館)2階 第4講義室

プログラム

 1. 山本與志隆(愛媛大学)
    「杉本先生の思い出」

 2.太田裕信(愛媛大学)
    「西田幾多郎の歴史哲学について」

 3.白井雅人(立正大学)
    「西田哲学における神の問題」

 4.名和達宣(真宗大谷派教学研究所)
    「西田哲学と親鸞教学の交流する場所」

 5.水野友晴(日独文化研究所)
    「近代日本哲学から見た「禅」と「哲学」」

 

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