12月7日(土)、文学研究科第3講義室で、2019年度京都大学文学研究科・文学部公開シンポジウム「文化遺産の現在(いま)」を、本センターが企画・開催しました。
本シンポジウムは、日本と世界において、「文化遺産」の概念、および現代社会との関係が大きく変化しようとしている中、本センターがどのような役割を果たすことができるのかについて、議論を深めることを目的としました。そのために、当日は4名の報告者から、さまざまな地域・研究対象についての事例報告をお願いしました。
千葉豊「北白川から垣間みる縄文の世界」では、濱田耕作が石斧を採集したことからはじまった、北白川周辺の縄文時代遺跡群研究を通して明らかになってきた、この地域に定着した縄文人の「小さな暮らし方」が紹介されました。また、最近の縄文ブームについて語られるさまざまなイメージの分析を通して、縄文と現代社会との関係についての検討がなされました。
内記理「危機を迎える文化遺産との対話―アフガニスタンとパキスタンの事例から―」では、京都大学によるアフガニスタン・パキスタンでの遺跡調査の歴史が紹介された後、報告者が最近訪問したパキスタン各地の遺跡の現状について報告がありました。
杉山淳司「木材学の視点から見る文化遺産」では、木材学を研究されてきた立場から、木材が用いられた文化遺産の解析・教育・保存に関わる諸問題について、さまざまな実例が紹介されました。また、文化遺産に用いられた木材に関する樹種・年輪などの諸情報のデータベース化と、その公開に関する現状が報告されました。
上島享「宗教思想から文化遺産学を広げる―日本中世の仏と神の世界―」では、起請文・起請木簡・日吉曼荼羅・懸仏・上賀茂神社絵図などの有形遺産と、能や民俗行事などの無形遺産を総合的に検討することを通して、日本の中世に生きた人々の仏神観や世界観がどのように形成されたのかについての研究成果の紹介を通して、文化遺産学の可能性や広がりについて議論されました。
パネルディスカッション「文化遺産の現在(いま)」では、吉井秀夫センター長の司会により、報告者間で質疑応答を行い、さらにフロアからの質問に対して、報告者がコメントしました。議論を進める中で、①今回報告のあった木材学をはじめとする理系の研究成果・研究手法を、文化遺産学にどのように応用・融合していくのか、②さまざまな理由から破壊・劣化していく文化遺産をどのように修復・保存・活用していくことができるのか、③文化遺産に対する環境や価値観が少なからず変化している現状において、研究者がどのようなアプローチをしていくことができるのか、といった問題点が抽出されました。こうした問題点に取り組みながら、今後も本センターの活動を進めていきたいと思います。