古代ギリシア・ローマの人々が「よく生きるために」創出したギリシア神話・叙事詩をはじめとする文学諸ジャンル、民主制や共和国の理念など、本専修はこれらの文化的諸相を文献に基づいて研究する。
河島 思朗 | 准教授 | 西洋古典学 |
竹下 哲文 | 助教 | ラテン文学 |
西洋古典といえば、外国文学の中でも最もなじみの薄いものの一つかも知れません。西洋古典学専修を擁する大学も日本では三つしかありません。ここではギリシア語・ラテン語で書かれた文学を中心に、哲学や歴史、さらには古代ギリシア・ローマの文化全般を研究対象にしています。ヨーロッパの思想や文化を辿っていくと必ずローマとギリシアに到達しますし、動植物の学名から病気の名称に至るまで、科学用語は今でもほとんどギリシア語・ラテン語を元にして作られています。
ほとんどすべての文学ジャンルが古代に既に出そろっています。ギリシアではホメロス作と伝えられる叙事詩『イリアス』と『オデュッセイア』、抒情詩人サッポーやピンダロス、三大悲劇詩人アイスキュロス、ソポクレス、エウリピデス、喜劇詩人アリストパネス、歴史の父ヘロドトス等々。ラテンでは喜劇詩人プラウトゥスとテレンティウス、ウェルギリウスの叙事詩『アエネイス』、ホラティウスの多様な詩、オウィディウスの『変身物語』、リウィウスやタキトゥスの歴史、キケロやカエサルやセネカの散文等々。紀元前八百年頃から千数百年にわたるこれらの作品を今日読むことができるのも、写本を発掘しテクストを確定してきた先人の気の遠くなるような努力のお陰です。西洋古典を学ぶことは、古典の魅力に触れると共に、学問を守り継承してきた人々の営みに連なることでもあるのです。
准教授 | 河島 思朗 | 西洋古典学 |
助教 | 竹下 哲文 | ラテン文学 |
紀元前8世紀のホメロスから後2世紀のローマの著述家まで、ギリシア語・ラテン語を用い同一の文化的精神的伝統を共有する世界を古典古代という。そこにおいてギリシア文学は叙事詩・抒情詩・悲劇・喜劇・歴史・牧歌・小説など、さまざまな文学ジャンルを生み出し、ラテン文学はギリシア文学を継承しつつ、恋愛詩・風刺詩・弁論など独自の発展を織り込んでルネッサンス以後の再生に連なる古典の伝統を築き上げた。
本専修は、一方で、これらの文学作品を主要な研究対象とする。さらに、古典古代にギリシア語とラテン語で書かれたすべての文献をも研究領域に含めつつ、原典批判を基本に、テクストを精細に読み、背景にある伝統を踏まえ、文脈に即した解釈を提起すべく研究を進める。
その一方、西洋古典学という学問の特質、および、古典古代以前と以後にも注意と目配りを忘れない。すなわち、西洋古典学は古代にあっても近代の新たな出発点にあっても、文学、哲学、歴史学など人文科学分野にとどまらず、数学、物理学、天文学、医学、生物学などの自然科学分野をも含んで、人間にかかわるすべての学問分野にまたがる形で成立し、その根幹には人間を分割しえない完結した個体として相対的に捉えようとする視点があった。また、ギリシア文化の形成にあたっては、エジプトやメソポタミアの先進国から多大な影響が及び、他方、古典文化の伝統はビザンチン文化やカロリング朝文化、さらにはイスラム文化によって継承されたという、文化史の大きな流れを視野からはずすことはできない。
本専修における大学院進学者は、京都大学文学部出身者よりも他大学出身者の方が多い。古典の語学・文学を研究する学生はもちろん、文化を研究する学生にとっても、もっとも重要なのは第一次資料となるギリシア語・ラテン語の原典を読みこなす能力である。また、辞書・研究書は外国語のものがほとんどであるから、英・独・仏等の近代後にも堪能であることが要求される。古典古代を広い視野から研究するために、古代哲学史・西洋古代史の授業をも積極的に受講することが望まれる。