イタリア語学・イタリア文学の講座として日本で最初にできた伝統ある専修で、専門的イタリア研究者の養成機関。中世からルネサンス時代を経て、近・現代作家までを、ヨーロッパ文明の文脈の中で読み解く。
村瀬 有司 | 准教授 | トルクァート・タッソと16世紀イタリア文学 |
イダ・ドゥレット | 特定准教授 | レオパルディ、モンターレを中心とする近現代イタリア詩 |
ここ十数年の間にイタリアは日本人にとってたいへんなじみ深い国のひとつになりました。イタリアのサッカー・チームで大活躍する日本人選手も登場し、その彼はボールのみならずイタリア語をもまた見事に操ってみせてくれます。テレビCMの中でイタリア語を耳にするのはなんら珍しいことではなくなりました。
ところで、これはあまり知られていない事実ですが、イタリア語は実は700年以上も昔から現在に至るまでほとんど変化していません。日本に当てはめるならば、室町時代の言葉がそのまま今日でも使われていることになります。たかだか百年ばかり前の明治あるいは大正期の日本語と現代のそれとの違いを思い浮かべるだけでも、これがいかに驚くべきことか想像がつくでしょう。原因はイタリア語が基本的に日常の実用言語というよりも文学用の言語であったことに求められますが、ヨーロッパの諸言語の中にもあまり例を見ないこうした特色に、中世末期以来イタリア文化がさまざまな分野で大きな影響力を行使してきたという事情が加わる結果、イタリア語・イタリア文学を学ぶ現代人は類まれな豊かさを味わうことができます。
本専修では、こうした豊かさを単に知識の消費者として享受するにとどまらず、みずから知識の生産者として専門研究をめざす人材の育成を念頭において、1回生のイタリア語未習者にも受講できる文学史講義にはじまり、写本のマイクロ・フィルムを使っての演習や討論形式のゼミなど、バラエティーに富んだ授業を行なっています。
当専修の創設は1940年に遡りますが、日本で最初にこうした機関が京都大学に設置をみた背景には、1908年文学部創設以来、上田敏、厨河白村はじめ多くの教官がダンテ研究にたずさわったことによる研究成果の蓄積がありました。そして、開設に先立ち、京都大学附属図書館が、ダンテ研究者大賀寿吉氏により「旭江文庫」の寄贈を受けています。この文庫はダンテの貴重な原典をはじめ1936年までに刊行されたダンテ関係文献約3000点を収めた日本では他に類をみないきわめて重要なコレクションであり、文学部の蒐集になる集書とともに内外の研究者によって活用されています。
ヨーロッパ文学研究に携わる者にとって、ダンテ、ペトラルカ、ボッカッチョの三大詩人を生んだイタリア文学の伝統と、西欧近世思想の母体となったイタリア・ルネサンス文化に関する知識が基本的な条件であることは言うまでもありません。その意味で、特にイタリア文学の研究になお未開拓な分野を多く残す日本においては、より多くの研究者が要請されています。