哲学史は哲学の「フィールド・ワーク」の場である。哲学とは何かを理解し、哲学的に思考する力を身につけるためには、まずその歴史と伝統に立ち返ることが 不可欠である。
大河内 泰樹 | 教授 | 西洋近世哲学史 |
周藤 多紀 | 教授 | 西洋中世哲学 |
早瀬 篤 | 准教授 | 西洋古代哲学 |
プラトンやアリストテレスという哲学者の名前ぐらいは聞いたことがある人は多いと思います。私たちの研究室では、そのような人々をはじめとした西洋古代の哲学を学び研究しています。
そもそも「哲学」という言葉は、philosophiaという、古代ギリシアに発生した特定の知的な運動を表わすギリシア語に由来します。それ以来、哲学という営みが続いてきた理由の一つは、この古代ギリシアのphilosophiaがそれだけのインパクトと潜在力をもっていたからです。事実、古代ギリシアでは、「世界は何から構成されているのか」「価値や倫理は取り決めごとにすぎないのか」などの基本的問題について相互に論争するなかで、さまざまな考え方の原型や重要な概念が形成されました。
このように哲学が成立した現場にさかのぼって考えることは、現在われわれが何気なく使っている概念や暗黙のうちに受け入れている考え方がどのように形づくられたのかを反省し、またそこから思考を自由にするための手がかりとなります。今から二千年以上まえの人々が考えたことを研究するのも、そのためです。
ですから、現代の諸問題に鋭い意識をもちながらも、哲学が生まれた大本からものごとを捉え直すことは、哲学にとっては「最先端」の理論を追い続ける以上に大切なことでしょう。そのような思考の力を養う場として、最適な研究室です。実際の研究は、古代ギリシア・ローマの原典を精密に読み、考え、討論するという地道な作業が基礎となりますが、硬質な素材にたじろがない挑戦者を求めています。
そもそも「哲学」という学問も高校では学んでいないのに、「中世哲学って何」という人も多いでしょう。西洋の中世と聞いて「暗黒時代」というイメージを持っている人は、今でも少なくないかもしれません。しかし、ヨーロッパの1000年以上にわたる中世という時代には、16世紀以降の近世を用意した要素もあれば、近世が失ってしまった要素もあります。もちろん、古代世界との連続性もあります。「中間の時代」はそれだけ彩りゆたかな世界なのです。
中世哲学にはキリスト教という宗教と切り離せない面があります。ですが、別にキリスト教の信者でなければ中世哲学にアクセスできないというわけではありません。中世の論理学や記号論を学ぶこともできるし、「ものを知るとはどういうことか」についての思っても見なかったアプローチに触れることもできます。もちろん、「人はどのように生きればよいのか」といった問題も扱われます。このような問題に触れるためには、講義を聴くほかに、中世の思想家たちの原典テキストをきちんと読む作業が必要です。そのテキストの大半はラテン語で書かれているので、ラテン語を学ぶことはどうしても欠かせません。これはジミでシンドイものですが、本物の思考を知ることが、結局は自分で考えるための最高の栄養なのです。研究室の現況や授業内容などについては、西洋哲学史(中世)専修 ホーム・ページを見てください。
デカルト、カント、ヘーゲルという名前は哲学者の代表として多くの人がご存じでしょう。西洋近世哲学史専修はこの3人をはじめとする、ヨーロッパ近世の哲学者とその哲学を集中的に学ぶ場所です。「哲学」という言葉と最も密接に結びついている大哲学者たちの著書を原語で正確に読む訓練を受け、彼らの哲学を生んだヨーロッパ文明そのものについての見識を身に付けることは、グローバル化された世界という現状におけるあらたな教養としても、ますます必要とされていることです。西洋近世哲学史を学ぶことは、事柄を分析する論理的思考を鍛え、同時にまた歴史的多様性と相対性についての洞察を深める、という形で実を結んでくるはずです。
好奇心が旺盛で、少々難しい本を論理をたどりながらじっくり読むことが好き、というタイプの人にとってはスリリングな体験ができる学問分野であることは請け合いです。
(近世) | 教授 | 大河内 泰樹 | 現代プラグマティズムにおけるヘーゲル受容 |
(中世) | 教授 | 周藤 多紀 | ラテン教父哲学、13世紀のスコラ哲学 |
(古代) | 准教授 | 早瀬 篤 | 西洋哲学史 |
本専修は、西洋哲学史における古代、中世、近世の三つの研究分野をふくんでおり、研究上および運営上でも相互に密接な関連を保っているが、ここでは便宜上、三つの分野に分けて記述する。
本研究室が目指すのは、哲学という営みが形成・確立された現場から、古代哲学の特質を理解すると同時に、哲学の基礎的な問題をその根元にまで遡って考察することである。そのためにはテキストの厳密な読解が前提となるので、古代ギリシア語に精通することが必須であり、またラテン語や近代西欧諸語も習得することが望ましい。初期ギリシアから後期ローマおよびその周辺までわたる広範な研究領域のなかで、研究対象と方法の選択は各自の自由にゆだねられており、最近では研究テーマは多様化している。ただしプラトンとアリストテレスの哲学を基本とした思考と文献学の訓練は重要であり、他分野の研究にとっても基礎となるだろう。本研究室では、院生を中心として意欲的な研究の交流がおこなわれており、発表の場として研究室紀要『ヒュポテシス』を年一回発行している。また当研究室が運営の中心となっている「古代哲学会」が組織され、機関誌『古代哲学研究』が年一回発行されている。
本分野がカヴァーする研究領域は、古代末期のキリスト教教父時代からスコラ学をへてルネサンスに至るまでの哲学である。この領域を専攻しようとする者には何をおいても原典テキストの綿密な読解が要請されるので、この時期の学問言語であるラテン語に習熟していることが必須の条件となる。さらには、中世哲学が古代ギリシア哲学との連関のもとで成立しているために、古代ギリシア語についても初歩的文法の知識は必要である。また、中世哲学の根底的背景としてのキリスト教についても、基本的知識が要求される。以上のような歴史的知識とその上での哲学的思考能力を基礎として、具体的な研究対象の選択は学生本人にまかされる。ただ、重要な哲学者の主要な著作から研究を始めることが望ましい。西洋中世哲学史の研究室には、その出身者を中心とした京大中世哲学研究会が組織されており、そこで研鑽を積むことができるとともに、年一回発行されている機関誌『中世哲学研究(ヴェリタス)』に研究を発表することができる。
近世哲学史専修では、ヨーロッパ近世から現代にかけての古典的な哲学者の研究が中心となる。この時期はデカルト、カント、ヘーゲルをはじめ人口に膾灸した哲学者たちに富んでいるうえ、わが国での研究の蓄積もすでに相当のものになっている。しかし、ヨーロッパ自体の再定義の試みが始まるなか、近世哲学史研究もまた19世紀的常識に安住しない視野からの見直しが始まっており、今後一段と斬新な知見がもたらされるべきスリリングな研究領域であることを失わない。ヨーロッパでそうであるように、哲学と歴史の両方にわたる関心と能力を持つ研究者が近世哲学史でも期待されている。古典語を含む多言語を読みこなす語学力、テキストの論理を追跡・再構成できる緻密な思考力、地道な実証力、そしてフレッシュな眺望を求める大胆とそれと同時並行してぴったり焦点の合わせられた細部を愛する小心こそがわれわれの備えるべき要件であり、研究室という場でこれらの資質を磨くことがメンバーとなるものの課題である。研究成果の発表の場としては、『近世哲学研究』を年1回発行している。