明治から昭和期の宗教哲学者。
1877(明治10)年7月21日、長野県筑摩郡松本町に生まれる。第一高等中学校、高等学校大学予科を経て、東京帝国大学文科大学に入学、哲学科を卒業。大学院では近世哲学史を専攻し、ケーベルに師事する。1902(明治35)年、植村正久から洗礼を受け、キリスト教徒となる。1904(明治37)年から2年間、ドイツに留学。東京専門学校(現早稲田大学)、東京帝大で哲学・哲学史を講じた後、1917(大正6)年より京都帝国大学文科学科の招聘を受け、宗教学講座教授となる。著作の発表を控えた時期を経て、昭和10年頃から三部作と呼ばれる代表作『宗教哲学』、『宗教哲学序論』、『時と永遠』を順次、発表する。1950(昭和25)年1月17日没、享年72歳。巨体のため棺は特製だったらしい。
京都学派における宗教哲学が、主に禅を中心とした仏教からの影響を強く受けている中で、キリスト教を信仰し、自身の宗教体験を掘り下げて思索した波多野の思想は、京都学派の中でも極めて独自のものである。(「西田君のような学問は一夜漬けが出来るが、僕のはそれが出来ないよ」との言が月報にある。)波多野自身は、体験や実践を重視する発言を続けているが、彼の仕事は厳密な宗教史や哲学史であった。
波多野自身の思想は、時間の世界から永遠の世界に至る上昇運動に力点がおかれている。波多野によれば、人間は自然的生、文化的生、宗教的生と上昇する過程で、時間を克服する。宗教的生を生きることは「無からの創造」であると言われている。とりわけ大きな影響を波多野に与え続けたのはカント哲学であろう。また、神秘主義との近さが指摘される場合もあるが、彼自身は神秘主義の思想家を研究していたものの、扱いには慎重であった。
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