2019年度より、大学院生の研究発表の場の設置と、海外からの研究生との交流とを目的に、研究室を主体としてミニシンポジウムを開催しております。
大学院生の研究発表の場の設置と、海外からの研究生との交流とを目的に、研究室を主体としてミニシンポジウムを開催致しました。今回は本研究室に所属する三人の九鬼周造研究者にご登壇いただき、「九鬼周造と自己同一性/アイデンティティ」というテーマでそれぞれご発表いただきました。以下に登壇後のコメントを掲載します。
日程:2019年(令和元年)8月9日(金)
登壇後のコメント:
日本哲学史研究室シンポジウムの第一回の開催テーマが九鬼周造ということで、今回院生ながら博士の方々に混ざって登壇させていただき大変光栄に感じております。「九鬼周造と自己同一性/アイデンティティ」というテーマについて藤貫さんは文学論の観点から、ディオゴさんは国家、民族の観点から発表していただき、私自身は実存主義の観点から発表しましたが、九鬼哲学の要である「偶然性」によって根底において三者が結びついており、活発な議論が可能となりました。日本哲学史研究室における初めての試みですが、知見を深める良い機会になったので、今後も是非続けていき、他の研究室との交流の場になればより面白いと感じました。
シンポジウムのテーマ、「九鬼周造と自己同一性/アイデンティティ」は九鬼哲学研究にとって重要でありながら、考察するには十分に余地があるテーマだと思われますので、今回のシンポジウムは貴重な機会になりました。
私の場合、深く考えたことのないテーマでありましたので、初めて「九鬼にとってアイデンティティは何か」と自分自身に問いかけたことで、他の関心のある政治的なアイデンティティと関係性があると気づき、それについて発表させていただきました。
鹿又さんと藤貫さんは、九鬼哲学におけるアイデンティティを他の見地から見事に発表されており、そのテーマは九鬼哲学全体に渡っていることに気づきました。
最後に、シンポジウムまで足を運んでいただいた皆様とディスカッションでき、様々な興味深い指摘もなさってくださり、とても勉強になりました。この度、登壇者として、第一回日本哲学史研究室ミニシンポジウムに参加させていただき、深く感謝しております。
鹿又氏の発表も私の発表も、九鬼の偶然論に基づく実存哲学に着目し、「運命」や「目的なき目的」といった概念を手掛かりに、偶然的な実存たる我々が目的的必然性としてアイデンティティーを引き受けられるかを論じた。一方、ディオゴ氏が九鬼の日本文化論を材料に提起したのは、アイデンティティーを引き受けさせられるという事態、そして引き受けさせられたアイデンティティーが不可避的に帯びる政治性という問題であった。かくして、本シンポジウムは、九鬼における「偶然的実存におけるアイデンティティーの目的的構築」という共通見解を見出すとともに、「個人の実存的課題としてのアイデンティティー構築が不可避的に帯びてしまう集団的政治性」という重要な課題をも提起する、有意義な一時となったと思う。