講義題目 2019年度

開講期・曜時限 教員 種別 題目
前期火1 杉村靖彦 講義 宗教学A(講義)
[授業の概要・目的]

宗教と哲学は、人間存在の根本に関わる問いを共有しながらも、歴史的に緊張をはらんだ複雑な関係を結んできた。その全体を視野に入れて思索しようとする宗教哲学という営みは、多面的な姿ととりながら歴史的に進展し、現代でも大きな思想的可能性を秘めている。この授業では、その今日までの変遷を通時的に追うことによって、宗教哲学という複雑な構成体について、受講者が一通りの見取図を得られるようにすることを目的とする。

[授業計画と内容]

以下のテーマについて授業を行っていく(細部は変更の可能性あり)。
1.宗教と哲学:根本の問いから考える。
2.ミュートスからロゴスへ:哲学の誕生
3.ソクラテス、プラトン、アリストテレス:哲学における神
4.ユダヤ教、キリスト教、イスラム教:啓示と信仰の神
5.ヘブライズムとヘレニズムの出会い:キリスト教神学の成立
6.中世における神学と哲学:スコラ哲学と神秘主義
7.近世形而上学:デカルトと哲学的神学の流れ
8.宗教哲学の成立と展開(1):カントとシュライアマハー
9. 宗教哲学の成立と展開 (2):ヘーゲルとキルケゴール
10. 「神の死」とニヒリズム:ニーチェ
11.哲学と宗教の「解体」的反復:ハイデガー
12.日本の宗教哲学と仏教的伝統(1):西田幾多郎
13. 日本の宗教哲学と仏教的伝統(2):九鬼周造
14. アウシュヴィッツ以降の宗教哲学:レヴィナス
15.今日の宗教哲学の課題

開講期・曜時限 教員 種別 題目
後期火1 杉村靖彦 講義 宗教学B(講義)
[授業の概要・目的]

宗教哲学とは、哲学の一形態であると同時に、宗教研究のさまざまな道の一つでもある。この両面性とそれによる独自な意義が理解できるように、この授業では、宗教哲学と宗教学の歴史的関係を明らかにした上で、基本となる文献を幅広く選び、それぞれについて読解の手がかりとなるような解題を行っていく。それを通して、この分野における過去の重要な思索を自ら追思索し、宗教という事象を視野に入れた哲学的・学問的思索の一端に触れることが、この授業の目的である。

[授業計画と内容]

以下のテーマについて授業を行っていく(細部は変更の可能性あり)。
1.宗教哲学と宗教学(1):歴史的位置づけ
2.宗教哲学と宗教学(2):さまざまなアプローチ
3.宗教哲学と宗教学(3):現代的課題
4.パスカル『パンセ』:考える葦と隠れたる神
5.ヒューム『宗教の自然史』:経験主義的宗教論の嚆矢
6.カント『単なる理性の限界内の宗教』:根源悪論と宗教哲学
7.ニーチェ『道徳の系譜学』:ラディカルな宗教批判
8.ジェイムズ『宗教的経験の諸相』:宗教心理学の方法
9.西田幾多郎『善の研究』:日本の宗教哲学の出発点
10.モース『贈与論』:宗教社会学の豊饒な可能性
11.ハイデガー『存在と時間』:「現存在」と「死への存在」
12.ベルクソン『道徳と宗教の二源泉』:静的宗教と動的宗教
13.エリアーデ『聖と俗』:宗教現象学の射程
14.ヨナス『アウシュヴィッツ以後の神概念』:神概念の解体的変容
15.総括

開講期・曜時限 教員 種別 題目
前期水2 芦名定道 特殊講義 キリスト教思想研究入門A
[授業の概要・目的]

この特殊講義は、すでに系共通科目「キリスト教学講義」を受講し、キリスト教思想研究に関心のある学部生、あるいはキリスト教研究の基礎の習得をめざす大学院生を対象に行われる。キリスト教思想研究を目指す際に身につけておくべき事柄について、またいかなるテーマをどのように取り上げるのかについて、解説 を行う。

[授業計画と内容]

本年度前期のテーマは、「宗教改革から近代キリスト教思想へ」である。初回のオリエンテーションに続いて、次のような項目について、講義が進められる。一回の講義で一つの項目が取り上げられる。

0.オリエンテーション
1.現代キリスト教思想の基本動向
2.現代神学1:自由主義神学と弁証法神学
3.カール・バルト
4.ブルトマン
5.ボンヘッファー
6.ティリッヒ
7.H・リチャード・ニーバー
8.ブルトマン学派と解釈学的神学
9.現代神学2、あるいはポスト近代
10.解放の神学
11.科学技術の神学
12.モルトマン
13.パネンベルク
14.アジア・アフリカ神学
15.フィードバック

フィードバックの具体的なやり方については授業にて説明を行う。

開講期・曜時限 教員 種別 題目
後期水2 芦名定道 特殊講義 キリスト教思想研究入門B
[授業の概要・目的]

この特殊講義は、すでに系共通科目「キリスト教学講義」を受講し、キリスト教思想研究に関心のある学部生、あるいはキリスト教研究の基礎の習得をめざす大 学院生を対象に行われる。キリスト教思想研究を目指す際に身につけておくべき事柄について、またいかなるテーマをどのように取り上げるのかについて、解説を行う。

[授業計画と内容]

本年度後期のテーマは、「旧約聖書と哲学的問い」である。初回のオリエンテーションに続いて、次のような項目について、講義が進められる。一回の講義で一つの項目が取り上げられる。

0.オリエンテーション
1.「文化の神学」の構想
2.聖書翻訳の意義
3.告白文学の系譜
4.修道制と文化構築
5.死と死後世界:煉獄思想の誕生
6.教会建築のコスモロジー
7.宗教改革と国民国家・国民文学
8.近代文学1:英文学
9.近代文学2:フランス文学
10.近代文学3:ドイツ文学
11.近代文学4:ロシア文学
12.近代文学5:日本文学
13.キリスト教と映画
14.キリスト教と音楽
15.フィードバック

フィードバックの具体的なやり方については授業にて説明を行う。

開講期・曜時限 教員 種別 題目
前期水4 杉村靖彦 特殊講義 「解釈(学)」をめぐる諸考察―その宗教/哲学的射程
[授業の概要・目的]

「哲学者たちは世界をさまざまに解釈してきたにすぎない。だが、大事なのは世界を変えることなのだ」(マルクス)。しかし、哲学と宗教の双方において、その原点となる言葉や書物に立ち返り、それをたえず新たに「解釈」していくことで思索を更新していくという営みがつねに行われてきた。そして、この営みについて「解釈学(Hermeneutik)」の名の下で方法的反省が繰り広げられるようになり、20世紀以降には、哲学・宗教思想においてひとつの重要な潮流となっていった。
「解釈」とは何をすることなのか。「解釈学」は宗教哲学にとっていかなる意義をもちうるのか。この授業では、そういった問題について、思想史的な流れをたどりながら考究していきたい。

[授業計画と内容]

以下の諸テーマについて、一つのテーマ当たり2,3回の授業を充てて講義する。
(「特殊講義」という、教員の研究の進展を直接反映させることを旨とする授業であるので、1回ごとの授業内容を細かく記すことはしない。また、以下の諸テーマにしても、細部については変更の可能性がある。)

1.「解釈」とは何をすることか―導入的考察
2.「解釈学」の前史
3.「哲学的解釈学」の由来と展開
4. 宗教的言語の解釈(学)
5. 哲学的解釈学と宗教的解釈学

なお、最後の授業は、本学期の講義内容全体をめぐる質疑応答と議論の場とし、講義内容の受講者へのフィードバックを図る。

開講期・曜時限 教員 種別 題目
後期水4 杉村靖彦 特殊講義 田辺哲学研究
[授業の概要・目的]

田辺元の哲学的思索は、その異様なまでの凝縮度と彼固有の論理への偏愛によって異彩を放っている。田辺は西洋哲学の最前線の動向、諸学問の最新の成果を飽くことなく摂取し、歴史的現実にもそのつど敏感に反応しつつ、それら全てに自前の思索によって緊密な総合を与えるべく、生涯血の滲むような努力を続けた。彼の濃密にすぎる文章はそのようにして生み出されたものである。この凝縮体を丁寧に解きほぐし、そこに封じ込められたさまざまな展開可能性を切り出すことによって、今日のわれわれがリアルな接触をもちうるような形で語り直すこと。それが本講義の狙いとするところである。本年度は、『懺悔道としての哲学』(1946)以降の後期田辺哲学の中核となった「実存協同」の概念の展開を追跡しつつ、1950年代以降の晩年の田辺の思索の二本柱というべき「死の哲学」と象徴主義文学への取り組みを扱いたい。この二系統の思索を、単に同時期になされた二つの探究として並列するのではなく、両者の深い次元での照応関係を再構成しつつ、同時代の西洋思想の布置の中に置き直すことが目的である。

[授業計画と内容]

以下の諸テーマについて、一つのテーマ当たり2,3回の授業を充てて講義する。
(「特殊講義」という、教員の研究の進展をダイレクトに反映させることを旨とする授業であるので、1回ごとの授業内容を細かく記すことはしない。また、以下の諸テーマにしても、細部については変更の可能性がある。)

1.『懺悔道としての哲学』までの田辺哲学の概観
2.「実存協同」という概念の成立と展開
3.「死復活」と「無の象徴」:両概念の生成とその連関
4.田辺の「死の哲学」とハイデガー
5.田辺の象徴主義文学研究と偶然性の問題

なお、最後の授業は、本学期の講義内容全体をめぐる質疑応答と議論の場とし、講義内容の受講者へのフィードバックを図る

開講期・曜時限 教員 種別 題目
前期水4 佐藤義之 演習 レヴィナスを読む
[授業の概要・目的]

レヴィナスは倫理の問題を手がかりに、旧来の哲学の根本的革新を企て、思想界に大きな影響を残した。
授業では彼の第二の主著とされる1974年のAutrement qu’être ou au-delà de essence.(『存在するとは別の仕方で、あるいは存在することの彼方に』)の仏語原文をテキストとして、彼の思想を理解する。

[授業計画と内容]

上記の著作はレヴィナスの思想のひとつの到達点である。授業はこの著作の中から「強迫」「痕跡」等々、第一の主著とされる『全体性と無限』の倫理観を先鋭化したとも言える主要概念を選び、その検討を行なう。そのためにふさわしい箇所を抜粋、熟読することで、彼の特異な倫理思想の大枠の理解を試みたい。

第1回:ガイダンス
第2回~第14回:『存在するとは別の仕方で、あるいは存在することの彼方に』の該当箇所の精読
フィードバックについては授業で周知する。

開講期・曜時限 教員 種別 題目
後期水4 佐藤義之 演習 レヴィナスを読む
[授業の概要・目的]

レヴィナスは倫理の問題を手がかりに、旧来の哲学の根本的革新を企て、思想界に大きな影響を残した。
授業では彼の第二の主著とされる1974年のAutrement qu’être ou au-delà de essence.(『存在するとは別の仕方で、あるいは存在することの彼方に』)の仏語原文をテキストとして、彼の思想を理解する。

[授業計画と内容]

前期に引き続き、上記著作をテキストとして扱う。後期においては前期の基本的倫理思想の理解をふまえて、彼のこの時期の新展開と言える、「正義」「語ることと語られること」などの諸概念に関連する箇所を抜粋し熟読する。

 第1回:ガイダンス
 第2回~第14回:『存在するとは別の仕方で、あるいは存在することの彼方に』の該当箇所の精読
 フィードバックについては授業で周知する。

開講期・曜時限 教員 種別 題目
前期水5 杉村靖彦 演習 Paul Ricoeur, La symbolique du mal を読む
[授業の概要・目的]

『悪のシンボリズム』は、ポール・リクールが「意志の哲学」の第2巻『有限性と罪責性』の第2分冊として1960年に刊行した著作である。この著作は、リクール哲学が「解釈学」へと変貌する転機となっただけでなく、同時期に刊行されたガダマーの『真理と方法』と共に、20世紀後半の解釈学的哲学を方向づける記念碑的な著作となった。 
 本演習では、この著作の序論を中心に精読していくことによって、哲学と宗教において「解釈」という営みがもつ意義と射程について、共に考察していきたい。

[授業計画と内容]

第1回 導入
  テクストを読み進める上で必要な予備知識の解説を行う。
第2回‐14回
  リクール『悪のシンボリズム』の序論を1回当たり2,3頁のペースで読み進めていく。
第15回
  論文の全体を振り返り、疑問点等について出席者全員で討議を行う。

*フィードバックの方法は授業中に指示する。

開講期・曜時限 教員 種別 題目
後期水5 杉村靖彦 演習 Vladimir Jankelevitch, La mort を読む
[授業の概要・目的]

ここ10年来、哲学や宗教が長らく根本問題の一つとしてきた死や死者という問題が、たとえば「死生学」といった新たな意匠の下で盛んにとりあげられてきたが、その際「一人称の死」「二人称の死」「三人称の死」という区分法が自明の事のように用いられてきた。それを最初に提示したのが、ジャンケレヴィッチの大著『死』(1966)である。死の三区分が便利な符牒として独り歩きする一方で、独自の用語を駆使し濃密な文章で展開されるこの著の叙述自体は、ほとんどまともに理解されていないとい言っても過言ではない。
今期の授業では、昨年度に続いて、この著の第2部「死の瞬間における死」の第3章「不可逆なもの」および第4章「取り消しえないもの」から重要箇所を抜粋して読み、ジャンケレヴィッチの独特の形而上学的思索が死の問いへと迫る仕方を精密に理解することを目指す。

[授業計画と内容]

第1回 導入
  テクストを読み進める上で必要な予備知識の解説を行う。
第2回 第2部前半までの内容紹介
  昨年度の演習で取り上げた箇所を中心に紹介する。
第3回‐14回
  ジャンケレヴィッチ『死』の第2部「死の瞬間における死」の第3章と第4章から抜粋した箇所を、1回当たり2頁程度のペースで精読していく。
第15回
  読み終えた箇所全体を振り返り、疑問点等について出席者全員で討議を行う。

*フィードバックの方法は授業中に指示する。

開講期・曜時限 教員 種別 題目
前期木3 下田和宣 講読 宗教/世俗の系譜学  タラル・アサド『宗教の諸系譜』を読む
[授業の概要・目的]

いわゆる「宗教概念論」の基礎文献である、現代の宗教研究者タラル・アサド(Talal Asad)の 主著『宗教の諸系譜』(Genealogies of Religion, 1993)を読む。
 「宗教」の概念は、ヨーロッパ近代、とりわけプロテスタンティズムの刻印を強く受けたもので あり、他文化における信念・儀礼大系に対する適切な解釈フレームとは原理的になりえない、にも かかわらずこれまで無反省に自明なものとして語られてきた――こうした宗教概念批判の視点は、 今日において「宗教」を考えるうえで不可欠なものであろう。とはいえ、その結論のみを受容し、 いわゆる「宗教」ないし「宗教学」の「死」を宣言するだけでは、それらに代わる健全中立で無色 透明の代替概念があるわけではない以上、「宗教」をめぐる現状を適切に理解することからはむし ろ離れてしまう危険もある。
 そこで本授業では、宗教概念論の批判的結論の手前にあり、それを導き出す研究手法としての「 系譜学」に着目する。「宗教」をめぐる言説の歴史的・文化的形成に立ち返り、概念をそのコンテ クストへと引き戻すことは、一方で暴露的・批判的なあり方を取るが、他方であくまでも歴史的探 求であろうとする。アサドのテクストが持つそうした側面に着目することで、概念批判論の抽象性 に満足するのではなく、歴史形成の文脈探査という形での(本質的に複数かつ多様な)宗教研究の 可能性を理解することが、本講読の目的となる。

[授業計画と内容]

『宗教の諸系譜』の記述は、複数のアプローチを備えたものである。アサドによる系譜学的探究を 理解するために、前期ではそのなかでもとりわけ第一章「人類学の範疇としての「宗教」の構築」 を読む。宗教を「シンボル」の文化システムであると理解するクリフォード・ギアツの理論がそこ での分析対象となるので、ギアツや、さらにそれを遡るところのカッシーラー哲学についても適宜 目を配りつつ読解を進めたい。

第1回 イントロダクション
西洋における宗教(religion)の歴史について概観しつつ、その批判としての宗教概念論を確認する。 そこから、アサド『宗教の諸系譜』の見取り図を示す。そのうえで、授業の進め方、および扱うテ キストについて説明し、訳読の割り当てを決める。

第2回~第14回 『宗教の諸系譜』第一章を読む
担当者は英文訳読の用意をする(一回の担当でだいたい半ページくらい)。原典に対する正確な理 解のために、アサドが行う引用についても、調べてみる。段落ごとに内容要約を行い、その理解に ついて議論する。

第15回 フィードバック
全体を振り返り、残された課題や問題点などについてまとめ、議論する。

開講期・曜時限 教員 種別 題目
後期木3 下田和宣 講読 宗教/世俗の系譜学  タラル・アサド『宗教の諸系譜』を読む
[授業の概要・目的]

いわゆる「宗教概念論」の基礎文献である、現代の宗教研究者タラル・アサド(Talal Asad)の 主著『宗教の諸系譜』(Genealogies of Religion, 1993)を読む。
 「宗教」の概念は、ヨーロッパ近代、とりわけプロテスタンティズムの刻印を強く受けたもので あり、他文化における信念・儀礼大系に対する適切な解釈フレームとは原理的になりえない、にも かかわらずこれまで無反省に自明なものとして語られてきた――こうした宗教概念批判の視点は、 今日において「宗教」を考えるうえで不可欠なものであろう。とはいえ、その結論のみを受容し、 いわゆる「宗教」ないし「宗教学」の「死」を宣言するだけでは、それらに代わる健全中立で無色 透明の代替概念があるわけではない以上、「宗教」をめぐる現状を適切に理解することからはむし ろ離れてしまう危険もある。
 そこで本授業では、宗教概念論の批判的結論の手前にあり、それを導き出す研究手法としての「 系譜学」に着目する。「宗教」をめぐる言説の歴史的・文化的形成に立ち返り、概念をそのコンテ クストへと引き戻すことは、一方で暴露的・批判的なあり方を取るが、他方であくまでも歴史的探 求であろうとする。アサドのテクストが持つそうした側面に着目することで、概念批判論の抽象性 に満足するのではなく、歴史形成の文脈探査という形での(本質的に複数かつ多様な)宗教研究の 可能性を理解することが、本講読の目的となる。

[授業計画と内容]

前期に引き続きタラル・アサドを扱うが、『宗教の諸系譜』と問題的に関連する『世俗の諸形成』(Formations of the Secular, 2003)が後期講読の対象である。
 「宗教」の反対語として真っ先に思い浮かぶのは「世俗」だろう。ところでこの対概念の布置状況が形成されたのは、まさにヨーロッパ近代においてであった。近代科学一般に通底する(がゆえに見えなくなっている)基本的スタンスとして、「世俗」は「宗教」からの分離を要求し、自身の自律性を主張する。そのとき「宗教」は、そこから切り離され排除されるべき対象領域として見なされる。その排除の身ぶりによって、脱宗教化・脱神話化としての「世俗化」の過程は、「宗教」概念の伝統的理解を強力に変形するのである。こうして「世俗」概念を研究することは、「宗教」の系譜学を補完するための不可欠な作業となる。
 今日において顕著なのは、「世俗」から切り離され縮小されたはずの「宗教」が再びいろいろな局面において語られるという事態である。いわばこの「宗教の回帰」において、宗教/世俗の二分法が何を意味していたのか、その自己主張によって規定されていた「ヨーロッパ近代」とはどのような時代だったのか、根底的に問い直されるのである。そうした「ポスト世俗主義」の時代状況を引き受けながら、しかしそれを素朴に権威化するのではなく、なお事態の理解を試みようとするのであれば、「宗教/世俗」の歴史的(諸)形成へと向かうアサドの系譜学的視点は、ひとつの有効な参照軸となりうるだろう。

議論の前提となる「世俗」(secular)、「世俗主義」(secularism)、「世俗化」(secularisation)は非常に錯綜した経緯を持つ諸概念である。それらを解きほぐすためには、テクストの読解と並び、60年代ドイツにおける世俗化論争(ブルーメンベルク、レーヴィット、カール・シュミット等)をはじめ、最近の「ポスト世俗主義」についての議論(ハーバーマス、チャールズ・テイラー等)に配慮することも有効であろう。授業ではそれらの文脈も積極的に考慮したい。

第1回 イントロダクション
前期の復習、「世俗」をめぐる諸議論についての概説、授業の進め方および扱うテキストについて説明する。訳読の割り当てを決める。

第2回~第14回 『世俗の諸形成』第一章「世俗主義の人類学とはどのようなものであろうか?」を読む
担当者は訳読の用意をする。原文および議論の背景に対する正確な理解のために、事項の調査を積極的に行う。段落ごとの内容要約を行い、その理解について議論する。

第15回 フィードバック
全体を振り返り、残された課題や問題点などについてまとめ、議論する。

開講期・曜時限 教員 種別 題目
通年金2 竹内綱史 演習 ニーチェ『悲劇の誕生』演習
[授業の概要・目的]

本演習では、ニーチェの哲学上の処女作『悲劇の誕生』(1872年)を精読する。同書は古典文献学の本として書かれてはいるが、当時の文化状況に一石を投じる意図のもと様々な問題意識が詰め込まれており、すでにニーチェ哲学の中心的な発想がすべて揃っているといっても過言ではなく、哲学史的にも一つの画期をもたらした本である。本演習ではその精読を通じて、ニーチェ哲学の核心を理解するとともに、後に「ニヒリズム」として論じられるようになる問題について検討したい。

[授業計画と内容]

第1回 イントロダクション
 『悲劇の誕生』という著作の概要や背景について解説する。基本的な訳書や概説書・注釈書などを紹介し、授業の進め方について周知する。
第2回~第14回 『悲劇の誕生』精読
 『悲劇の誕生』の第1節から精読する。テクストの一語一句について全員で議論する。毎回プロトコル担当者を決め、授業の最初に前回のプロトコルを発表してもらいそれについて検討してから、続くテクストの精読を行う予定。
第15回 前期まとめ
 前回まで読み終わった箇所についてまとめ、残された疑問点などについて全員で議論する。切りの良いところまで読了できていない場合、この回をあてることもある。
第16回 後期イントロダクション
 前期に読み進めた箇所について、残された課題等を確認する。必要に応じて、最新の研究動向についても紹介したい。
第17回~第29回 『悲劇の誕生』精読
 前期の続きを、前期と同じ形で精読する。
第30回 まとめ
 前回まで読み終わった箇所についてまとめ、残された疑問点などについて全員で議論する。切りの良いところまで読了できていない場合、この回をあてることもある。

開講期・曜時限 教員 種別 題目
前期金4 安部浩 演習 ハイデガーのニーチェ講義を読む
[授業の概要・目的]

ハイデガーのニーチェ講義。それは、ハイデガーその人の一見秘教的と思しき中期以降の思想を理解する上でも、ニーチェの後期哲学の高峰を踏査する上でも、避けて通ることのできない文献である。しかのみならず、ハイデガーやニーチェの思想との関連を別にしても、それは哲学の根本問題を自ら考える上で実に多くを教えられる、滋味掬すべき必読の書である。 
この大部の著作の第一巻、第一部を冒頭から繙読し、議論を戦わせていくことで、われわれは、藝術、永劫回帰、認識、形而上学、真理、存在等をめぐる問題系に関する考察に努めることにしよう。そしてそれにより、語学・哲学上の正確な知識、及び論理的思考力に基づく原典の厳密な読解力を各人が涵養すること、そしてこの読解の過程において浮上してくる重要な問題をめぐる参加者全員の討議を通して、各人が自らの思索を深化させていくことが、本演習の目的である。

[授業計画と内容]

原則的には毎回、予め指名した二名の方にそれぞれ、報告と演習の記録を担当して頂くことにする。以下、各回に扱う予定である原典の範囲を記すが、授業の進度については出席者各位の実力を勘案して修正することもある。
1. ガイダンス
2. Wille und Macht. Das Wesen der Macht
3. Die Grund- und die Leitfrage der Philosophie
4. Die fuenf Saetze ueber die Kunst
5. Sechs Grundtatsachen aus der Geschichte der Aesthetik
6. Der Rausch als aesthetischer Zustand (1)
7. Der Rausch als aesthetischer Zustand (2)
8. Kants lehre vom Schoenen. Ihre Missdeutung durch Schopenhauer und Nietzsche
9. Der Rausch als formschaffende Kraft
10. Der grosse Stil (1)
11. Der grosse Stil (2)
12. Die Begruendung der fuenf Saetze ueber die Kunst
13. Die erregende Zwiespalt zwischen Wahrheit und Kunst
14. 総括と総合討論

開講期・曜時限 教員 種別 題目
後期金3 安部浩 演習 ハイデガーのニーチェ講義を読む
[授業の概要・目的]

ハイデガーのニーチェ講義。それは、ハイデガーその人の一見秘教的と思しき中期以降の思想を理解する上でも、ニーチェの後期哲学の高峰を踏査する上でも、避けて通ることのできない文献である。しかのみならず、ハイデガーやニーチェの思想との関連を別にしても、それは哲学の根本問題を自ら考える上で実に多くを教えられる、滋味掬すべき必読の書である。 
この大部の著作の第一巻、第一部を冒頭から繙読し、議論を戦わせていくことで、われわれは、藝術、永劫回帰、認識、形而上学、真理、存在等をめぐる問題系に関する考察に努めることにしよう。そしてそれにより、語学・哲学上の正確な知識、及び論理的思考力に基づく原典の厳密な読解力を各人が涵養すること、そしてこの読解の過程において浮上してくる重要な問題をめぐる参加者全員の討議を通して、各人が自らの思索を深化させていくことが、本演習の目的である。

[授業計画と内容]

原則的には毎回、予め指名した二名の方にそれぞれ、報告と演習の記録を担当して頂くことにする。以下、各回に扱う予定である原典の範囲を記すが、授業の進度については出席者各位の実力を勘案して修正することもある。
1. ガイダンス
2. Wahrheit im Platonismus und im Positivismus. Nietzsches Versuch einer Umdrehung des Platonismus aus der Grunderfahrung des Nihilismus
3. Umkreis und Zusammenhang von Platons Besinnung auf das Verhaeltnis von Kunst und Wahrheit
4. Platons Staat: Der Abstand der Kunst (Mimesis) von der Wahrheit (Idee) (1)
5. Platons Staat: Der Abstand der Kunst (Mimesis) von der Wahrheit (Idee) (2)
6. Platons Phaidros: Schoenheit und Wahrheit in einem beglueckenden Zwiespalt (1)
7. Platons Phaidros: Schoenheit und Wahrheit in einem beglueckenden Zwiespalt (2)
8. Nietzsches Umdrehung des Platonismus
9. Die neue Auslegung der Sinnlichkeit und der erregende Zwiespalt zwischen Kunst und Wahrheit
10. Die Lehre von der ewigen Wiederkunft als Grundgedanke von Nietzsches Metaphysik
11. Die Entstehung der Wiederkunftslehre
12. Nietzsches erste Mittelung der Wiederkunftslehre “Incipit tragoedia”
13. Die zweite Mitteilung der Wiederkunftslehre
14. 総括と総合討論

開講期・曜時限 教員 種別 題目
金4・5(隔週) 杉村靖彦 演習Ⅱ 宗教哲学基礎演習
[授業の概要・目的]

宗教哲学の諸問題を考えるための基礎となる文献を選び、宗教学専修の大学院生にもチューターとして協力を仰ぎながら、それらを共に読み進み、問題を掘り起こし、議論を行う場となる授業である。授業への能動的な参加を通して、より専門的な研究への橋渡しになるような知識と思考法の獲得を目指す。
宗教学専修の学部生の必修授業であるが、哲学と宗教が触れ合う問題領域に関心をもつ2回生、および他専修学生の参加も歓迎する。

[授業計画と内容]

(前期)
「人間とは何か」という問い、あるいはそのように問うことが宗教哲学においていかなる意味をもつかという問いを導きとして、九鬼周造「人間学とは何か」(1938)と西谷啓治「現代における人間の問題」を共に通読していく。各回2,3人の担当者を決め、授業の前半は、担当者の内容要約および考察の発表に充てる。授業の後半では、教員の司会進行の下、発表内容をめぐって、チューターの大学院生たちも交えて、質疑応答と議論を行っていく。隔週授業のため、全7回として各回のテーマを記しておく。(詳細は変更の可能性あり)

1. オリエンテーション
2. 九鬼周造「人間学とは何か」(1)
3. 九鬼周造「人間学とは何か」(2)
4. 九鬼周造「人間学とは何か」(3)
5. 西谷啓治「現代における人間の問題」(1)
6. 西谷啓治「現代における人間の問題」(2)
7. 総括

*フィードバックの方法は授業中に指示する。

(後期)
宗教哲学の基本文献といえる著作や論文を選んで各回の授業に割り振り、事前に出席者に読んできてもらう。そして、毎回教師とチューター役の大学院生の解説をもとに、質疑応答と議論を行っていく。また、卒論向けの発表の際には、論述の仕方や文献の扱い方なども指導し、論文の書き方を学ぶための機会とする。
隔週の授業のため、全7回として各回のテーマを記しておく。なお、どのような文献を取り上げるかは、前期の「宗教哲学基礎演習A」の様子を見て決めることにする。それによって、各回で取り上げる文献の種類も、以下の記したものとは異なる可能性もある。

第1回  オリエンテーション・卒業論文の中間発表
第2回  宗教哲学の基本文献(近代イギリス)の読解・解説・考察
第3回  宗教哲学の基本文献(近代フランス)の読解・解説・考察
第4回  宗教哲学の基本文献(近代ドイツ)の読解・解説・考察
第5回  宗教哲学の基本文献(現代フランス)の読解・解説・考察
第6回  宗教哲学の基本文献(現代ドイツ)の読解・解説・考察
第7回  宗教哲学の基本文献(京都学派の哲学)の読解・解説・考察 

*フィードバックの方法は授業中に指示する。

開講期・曜時限 教員 種別 題目
金4・5(隔週) 杉村靖彦 演習Ⅱ 宗教学の諸問題
[授業の概要・目的]

演習参加者が、宗教学の諸問題のなかで各人の研究するテーマに即して発表を行い、その内容をめぐって、全員で討論する。討議のなかで、各人の研究を進展させることが目的である。

[授業計画と内容]

参加者が順番に研究発表を行い、それについて全員で討論する。各人の発表は二回にわたって行う。即ち、発表者は1時間以内の発表を行い、続いてそれについて討論する。発表者はその討論をうけて自分の発表を再考し、次回にその再考の結果を発表して、それについてさらに踏み込んだ討論を行う。したがって、1回の授業は前半と後半に分かれ、前半は前回発表者の二回目の発表と討論、後半は新たな発表者の一回目の発表と討論となる。
第1回 オリエンテーション、参加者の発表の順番とプロトコールの担当者を決定。
第2回ー8回 博士課程の院生による発表と全員での討論。
第9回-14回 修士課程の院生による発表と全員での討論。
第15回 総括。

開講期・曜時限 教員 種別 題目
前期集中 下田正弘 特殊講義 仏教思想論――歴史と解釈――
[授業の概要・目的]

仏教学は、洋の東西の人文学が邂逅して出現した近代人文学の縮図であり、その研究史には、近代から現代に至るまでの種々の思想的課題が、潜在的なかたちで胚胎されている。本講義は、近代における仏教研究の歴史を概観し、そこにふくまれた思想的課題を、歴史学と解釈学の弁別と調和という観点から照らし出す。

[授業計画と内容]

(研究史批判)
第1回 知の対象としての仏教
第2回 仏教歴史化の困難と歴史的ブッダ像の創出
第3回 先行形象化としての初期仏教
第4回 線的史観からトポスへ――大乗仏教研究の現在
(方法論の多様化)
第5回 社会人類学からの挑戦
第6回 文献外世界の仏教
第7回 東西思想が融合する研究パノラマ
(聖典、聖人、トポス)
第8回 聖典としての仏教
第9回 非言語的エクリチュールと仏典
第10回 聖人と場
(仏教思想概観)
第11回 無我から空へ――仏教思想の根底
第12回 二真理説の意義――言語と存在
第13回 意識の奥底へ――体系的思想としての唯識
第14回 仏の内部から外部へ――如来蔵思想
第15回 総括